「ヤクザと憲法」(2016年)=東風提供
「ヤクザと憲法」(2016年)=東風提供

「東海テレビドキュメンタリー劇場」と名付けられたシリーズは着々とファンを増やし、大阪府堺市の組事務所にカメラが潜入、暴対法施行後の「暴力団員」の実態を追った『ヤクザと憲法』、自らの報道局内にカメラを向けた『さよならテレビ』など話題作を生んできた。


 東海テレビの全作品を担ってきた阿武野(あぶの)勝彦プロデューサーを、ポレポレ東中野の大槻貴宏支配人に取り次いだのが東風だ。大槻支配人が語る。


「木下さんとは、東風を設立する前からの付き合いで、あのときも『ちょっと一本見てもらいたいものがあるんです』という、いつもの彼の言い方でしたね。題材は何?と聞くと、『いや、ちょっとヤバイんです』という」


 木下代表がもちかけた東海テレビの劇場第1作『平成ジレンマ』(2011年)は、訓練中に寮生の死亡事故を起こした「戸塚ヨットスクール事件」の戸塚宏校長のその後を追ったドキュメンタリーだ。


「なかには『炎上上等』みたいな人もいるんですよ。もめたらもめただけネタになっていいという考えの人が。しかし東風の彼らはそういう考え方は絶対しない。劇場からするとそこが信用できるところでもあり、何かまずいことが出てきたら一緒になって考えてくれる。そこはしっかりしている」


 大槻は阿武野に会うと、何本作るつもりなのかと問いかけたという。


「開局何周年とかでテレビ局が映画を作ることはあるんですが、そういう記念で終わるものは嫌だから。『3本は作ります』と言うので、じゃウチでやりましょうとなった」


 期待に反して『平成ジレンマ』は不入りだった。配給する側が「面白い」と思った自信作であっても、客が入らないことはある。シリーズ6作目となる『ホームレス理事長』(14年)も、初日の観客は三十数人(3回上映)。「もうすがすがしいくらいの大惨敗だねって、彼らとゲラゲラ笑っていた」と大槻は笑う。


 しかし、5年後。メディア関係者の間で前評判の高かった『さよならテレビ』の公開に合わせ、大槻は東海テレビの特集上映を組んだ。その日はクリスマスイブにもかかわらず満席となった。

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