鈴木浩介 [撮影/小山幸佑、ヘアメイク/奥山信次(barrel)、スタイリング/久修一郎(インピゲル)]
鈴木浩介 [撮影/小山幸佑、ヘアメイク/奥山信次(barrel)、スタイリング/久修一郎(インピゲル)]

 完成までの速度を速めなければと考え、自分の舞台への取り組み方を変えざるをえなくなった。舞台への取り組み方は人それぞれだが、鈴木さんは、コロナになる前は、自分が割と呑気なほうだったと振り返る。

「それまでは、台本全体を読んでキャラクターに想いを馳せる時間が必要だと思っていたんです。闇雲にセリフを頭に入れるよりも、稽古で相手役のセリフを聞きながら生まれる感情を大事にしたい、みたいな。でも今は、一気にセリフを頭に入れて、その後に、全体を通してキャラクターを読み込んでいくやり方に変えました。そうしたら、案外、『これが自分のやり方』とそれまで思っていたことが、単なる思い込みに過ぎなかったことがわかりました」

 コロナ禍で演劇を続けることは、スタッフにとっても出演者にとっても、通常のときの何倍も骨の折れる、厄介な作業の連続だった。誰もが必死だからこそ、「状況が変わったのでできません」とは言えなかった。でも、そうやって追い込まれたことで、「自分には無理だ」と思っていたことができるようになった。追い込まれたときに火事場の馬鹿力を発揮できた自分のことを、鈴木さんは「僕もまだまだ“変異”を重ねているってことですね」と言って笑った。

 現在稽古中の舞台「奇蹟」では、ミュージカル界のプリンスである井上芳雄さんが記憶をなくした名探偵を演じるが、鈴木さんはその相棒役だ。過去から現在へと連なる謎が眠る森を舞台にした、新たなバディ・ストーリー。劇作家・北村想さんの書き下ろしで、演出は寺十吾(じつなしさとる)さんだ。

「寺十さんの演出には、5年前の舞台で四苦八苦した思い出があります。求められていることを、自分が体現できたかどうかがいまだに謎で(苦笑)。毎回、稽古に入る前に最初に頭を掠めるのは、『迷惑をかけないように準備をちゃんとする』ということ。今回は、本当に難解な台本で、正直、変異した僕でも、『稽古初日までにセリフを入れるのは不可能なんじゃないか』と一瞬諦めそうになりました。とはいえ、必死でやったらセリフの丸暗記だけは一応なんとかなりましたけど」

次のページ