鈴木浩介 [撮影/小山幸佑、ヘアメイク/奥山信次(barrel)、スタイリング/久修一郎(インピゲル)]
鈴木浩介 [撮影/小山幸佑、ヘアメイク/奥山信次(barrel)、スタイリング/久修一郎(インピゲル)]

 名バイプレーヤーとして映像でも活躍しながら、コンスタントに、舞台には立ち続けている俳優・鈴木浩介さん。大学時代、憧れの俳優・西田敏行さんが所属する青年座の門をたたき、俳優になった鈴木さん。コロナ禍で、芝居への向き合い方を変えざるをえなくなった自分を、変異種にたとえた。

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前編/俳優・鈴木浩介が“安定した未来”に見切りをつけた理由】より続く

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 俳優として食べていけるようになるまでは、焼き肉屋と警備のアルバイトで生計を立てていた。ある日、お店が開店する時間になって、地下にある焼き肉屋の看板を地上に上げに行ったとき、「おぉ、すーさん」と男性に声をかけられた。

「一流企業に就職した大学の同級生でした。向こうは彼女を連れて、オシャレもバッチリ決まっていて、僕はお店の赤いエプロンをつけて、看板を持っていた。『大学生時代は一緒の教室にいたけど、今、自分と彼のいる場所はこんなに違うんだな』とは思ったけど、後悔はなかったです。僕がいちばん後悔するとしたら、自分を騙して就職して、自分を騙しながら生きることだと、当時すでにわかっていたから」

 自分に正直に生きてさえいれば、自分の人生はどんなものであれ楽しめると思った。そうして、30歳になる2004年に、西田さんの退団をきっかけにして、青年座を退団。その3年後、ドラマ「LIAR GAME」のフクナガユウジ役でブレークした。以降は、映像作品、舞台作品のみならず、バラエティーなどでも活躍するが、どんなに忙しくなっても、舞台にはコンスタントに出演している。昨年が2本、一昨年が2本。ただ、一昨年は、本当は3本出演する予定だった。大竹しのぶさんが主演する「桜の園」が、コロナのせいで中止になったのだ。

◆自分もまた変異種であると

「この出来事がきっかけで、舞台への取り組み方が変わりました。コロナ禍では、いつ感染者が出て、または緊急事態宣言が発令されて、稽古や舞台が止まるかもわからない。だから、できる限りの速度で作品を完成させることが急務だと。それまでの僕は、初日の稽古では台本を持って、相手のセリフを聞きながら、徐々にセリフを自分の中に入れていくやり方がいちばん合っていると思っていた。でも、稽古期間が1カ月ちょっとあっても、途中で止まってしまうことを考えると、2週間ちょっとで仕上げるような感覚でやっていかないと対応できないと気づいたんです」

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