「失楽園」(c)1997「失楽園」製作委員会
「失楽園」(c)1997「失楽園」製作委員会

「家族ゲーム」「失楽園」「武士の家計簿」など数々のヒット作を生み出した映画監督の森田芳光さんが61歳の若さで亡くなってから10年。斬新でユーモアあふれる視点と、あふれる編集センス。昭和、平成の日本映画史に大きな足跡を残した名監督の軌跡を、今一度振り返る──。

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森田芳光さん
森田芳光さん

 森田芳光さんの没後10年、生誕70年となる節目の年だった2021年。“森田芳光70祭”と銘打ち、森田作品をめぐるさまざまな動きがみられた。

 ゆかりのある映画館や映画専門チャンネルで特集上映・特集放映が組まれ、12月20日には商業映画デビュー作品「の・ようなもの」から、遺作となった「僕達急行 A列車で行こう」まで、26作品を収めたブルーレイボックスが発売されたばかり。全作品の解説と、豪華な顔ぶれの出演者や関係者たちによる寄稿やインタビューも掲載された550ページ超の豪華本『森田芳光全映画』(リトルモア刊)も発売された。

 同書は森田作品に大きな影響を受けたというラッパー・ラジオパーソナリティーの宇多丸さんと、森田さんの妻であると同時にプロデューサーとして多くの作品に携わってきた三沢和子さんによる作品解説トークショーをもとに構成されている。

森田さんの妻でプロデューサーの三沢和子さん
森田さんの妻でプロデューサーの三沢和子さん

 早稲田大学在学中にジャズピアニストとして活動していた三沢さんは、アマチュア映画を撮影していた森田さんに出会い、そのまま宣伝や製作に携わるようになり、後に結婚した。最も身近で森田さんに接し続けた三沢さんは、とんねるず主演で1986年に公開された「そろばんずく」を例にこう語る。

「松田優作さん主演の『家族ゲーム』で多くの映画賞をいただき、夏目漱石の作品を映画化した文芸的作品の『それから』でも高い評価をいただき、30代で“若き巨匠”と呼ばれたりもしました。そんなとき、それらを一度壊したくなるところがある。常に自己変革を続けるのが(森田の)特徴です」

 全編にギャグがぎっしり詰め込まれたスピード感あるシュールなコメディーに、当時は面食らった人も多かったという。

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