(週刊朝日2022年1月7・14日合併号より)
(週刊朝日2022年1月7・14日合併号より)

 キャストやスタッフの力が合わさって自分が思っていたようなシーンが撮れたときが、何よりうれしい瞬間だったという。

 製作中は常に楽しそうだったという森田さんだが、もう一つ、真面目で繊細な人間性を示すエピソードがある。いざ作品が完成して公開を迎えるとき、観客の入り具合を知るのが非常に怖そうだったと、三沢さんは言う。

「公開初日に満員での舞台挨拶があっても、『2回目の入りを見ないと、本当にヒットしているかどうかわからない』と言って帰らなかったり、次の日も、『今日はどのぐらいか調べてくれ』と言ったりしていました」

 森田さんはいくつものヒット作を世に出した。中でも興行収入44億円、その年「もののけ姫」に次ぐ日本映画第2位を記録する大ヒットとなった作品が、97年公開の「失楽園」だ。社会現象化したこの作品で主演をつとめた役所広司さんは、

「ご自分で『俺は助監督経験がないから他の映画の現場を知らない』と仰ってましたが、そのせいなのか分かりませんが、森田監督の現場は独特で自由で和やかな学生映画の雰囲気がありました」

 と、当時を振り返るコメントを本誌に寄せてくれた。「失楽園」の撮影時には、こんな撮影手法が印象に残ったという。

「久木と凛子が美術館で出会い、外に出た時の雨にはブルーの染料が微かに足されていて独特の世界を感じました。もう一つ、『失楽園』がヒットした時、森田監督は角川社長に、チーム全員にボーナスを出してくれないかと掛け合い、お陰でスタッフ、キャストはボーナスを戴きました。森田監督はとてもスタッフを大切にする方でした」

 森田作品の魅力については、こう証言する。

「同じ監督の作品だろうか?と思うくらいそれぞれが独創的で実験的な作品を残されていると思います。映像も美しく、ユーモアもあり、表現も自由で予測がつかない魅力があります」(役所さん)

「失楽園」は初日から多くの観客が劇場に詰めかけた。このときの思い出を、三沢さんはこう語る。

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