22年最初の仕事は、「有頂天作家」。昨年3月に上演されるはずだったが、コロナ禍で中止になった舞台である。

「稽古を2カ月近くやって、公開ゲネプロも人を入れながら1週間やり続けて、上演直前に中止になった舞台です。元々は杉村先生がやっていた作品で、昨年の稽古中に、脚本と演出を担当する齋藤雅文さんから、『やっぱり文学座のDNAを受け継いでいるね』と言っていただけたのが嬉しかった。どこを観てそう感じられたのかはわかりませんが、やはり、先輩方の教えに守られているんだなと思いました」

「有頂天作家」は、いわゆる商業演劇と呼ばれるジャンルである。今から20年ほど前、まだ俳優として尖っている部分も多かった渡辺さんは、佐久間良子さん主演の舞台に呼ばれたとき、「商業演劇はできません」と言ったことがある。

「看板の女優さんに気を使わなきゃいけないんだろうし、しきたりを守るとか、誰かを立てるとかやったことがなかった。でも、プロデューサーさんが、『思いどおりにやればいい』と言ってくださったので、稽古からしっちゃかめっちゃかやっていました。アドリブで、佐久間さんの前でおならをして、『キャー』なんて言われたり(笑)。そうしたら、中日あたりにプロデューサーから『あなたが一番商業演劇に似合ってます』と言われて、愕然としました。結局、俳優がやることはどこでも一緒だし、合う合わないは、自分が思っているのと違うんだな、って」

 好きな仕事の一つに、ナレーションがある。理由は、言葉だけの仕事だからだ。

「文学座は、文学者が作った、“言葉”の劇団なので。言葉を操るのが仕事だと思っています。テレビに出るときのキャラクター性を封印して、声だけで成立させることも大事だなと」

(菊地陽子、構成/長沢明)

渡辺徹(わたなべ・とおる)/1961年生まれ。茨城県出身。80年、文学座付属演劇研究所に入所、81年、「太陽にほえろ!」で俳優デビュー。85年に座員となる。2001年、舞台「あかさたな」「功名が辻」で、菊田一夫演劇賞を受賞。Eテレ「地球ドラマチック」のナレーションは17年以上続いている。城西国際大学メディア学部特任教授。日本将棋連盟から将棋親善大使も委嘱されている。

週刊朝日  2021年12月31日号