北村さんの指導は、確かに厳しかったが、いざ芝居について語るときに、北村さんの言葉を思い出すことがよくあるという。

「もう一つは、稽古のときに遠慮がないことです。20歳でデビューして、最初はずっと一番下で怒られてばかりいたのが、何年かやっていると怒られなくなってくる。ところが、劇団に戻ってみると、遠慮なくズカズカ言われる。傷つくけれど、それによって、『こんなことができないんだ』『これができるようになった』とわかるんです。俺はこれを、『人間ドック』ならぬ『役者ドック』と呼んでいます。衒(てら)いも忖度もない場所に身を置くことは案外難しいけれど、文学座の人たちは、どこかでみんな芸術を目指しているから、ずっと自分にも他人にも厳しくいられるんでしょうね」

 渡辺さんといえば、芝居を主戦場にしながら、その人間味溢れるキャラクターで早くからバラエティーにも進出。マルチタレントの走りでもある。

「でも、10年ほど前に女房(タレントの榊原郁恵さん)から、『お父さんはいろんなことやってきたけど、そろそろ自分のための仕事に絞ってもいいんじゃない?』と言われて、『俺の仕事じゃないかもな』と思うものは断ることも増えました。最初に演出家を志したときの情熱が再燃したのか、『やりたいことは作っちゃえ!』と、『徹座』というお笑いライブももう6回ほど開催しています」

 デビュー40周年の今年は、区切りとして「一番照れくさいことをやろう」と考え、家族での「家庭内文通」という朗読劇も上演した。

「屁理屈に聞こえるかもしれませんが、“楽しい”というのは、苦労を伴うからこそ。苦労しないようにラクにやっていたら、楽しさは生まれないんです。家族で舞台をやるなんて、どんだけやりづらいか。家でも稽古して、言い合いして。オンオフのケジメがない。息子も出るとなると、親としても先輩としてもイライラする。その辺、まったく予想どおりでした(笑)」

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