1929年の東京堂書店
1929年の東京堂書店

 本の街・神保町の老舗書店で昨年、創業130周年を迎えた「東京堂書店」。通りの向かいに店を構える三省堂についてどう思っているのか。同店の大橋知広社長に聞いた。

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「東京堂書店は昨年創業130周年を迎えました。東京堂書店の起源は大橋佐平が起こした博文館(現・博文館新社)で、1890年に創業した、その小売の書店部門が現在の東京堂書店となるのですね」

 東京堂書店の代表取締役社長の大橋知広さんはそう話す。現在も三省堂書店と、神保町のメインストリート「すずらん通り」を挟んで立つ。

 東京堂書店も1891年に出版業を開始する。

「東京堂書店の裏には小さな取次(書籍販売会社)が数社集まる神田村と呼ばれるところがありました。東京堂書店はかつて取次もしていて、神田村と隣同士なので、この本があるかとか、今、この本が欲しいという客の要望に応えていました」(大橋さん)

 東京堂書店が希少な本を販売できるのは、どの取次がどの分野に強いか把握し、そこに書店員が走り、手に入れて客に手渡すことができるからだ。

「うちで買えなければ日本中探してもないと言われたことも」(同)

現在の東京堂書店
現在の東京堂書店

 一般的な書店とは一味違う品ぞろえも特長で、ひいきにしている作家も多かった。夏目漱石はその代表で、立花隆、坪内祐三もなじみの客だった。多くの編集者も好きな書店として名をあげる。

「うちはベストセラーが一気に売れるというより、広く少しずつ売れていく感じです。三省堂書店さんが『学生のデパート』と言われていましたが、学生さんはあまり見ないですね」(同)

 三省堂書店について聞くと、「大先輩」としつつ、こう話した。

「三省堂さんが木曜を定休日としていた時期があったんです。その日は、東京堂書店に人があふれ、一日中忙しい。普段あまり売れないベストセラーの本など売れ筋の本が売れる。もうてんやわんやです。『三省堂がやってない、困った、じゃあ近くの東京堂に行こう』となったようです」

 三省堂の代わりにはなれないとも言う。

「一度閉めると聞き、どう対応しようか思案しているところです」(同)

 とはいえ、三省堂書店は神保町になくてはならない存在であることは間違いないとして続けた。

「リアルな書店は難しい時代かもしれませんが、現物を手に取って選ぶ楽しさは書店にあります。ともに神保町、そして出版界を盛り上げていきたいですね」(同)

週刊朝日  2021年12月24日号