アイスダンスのフリーで演技をする村元哉中、高橋大輔組
アイスダンスのフリーで演技をする村元哉中、高橋大輔組

 11月13日、フィギュアスケートNHK杯アイスダンスに出場した村元哉中、高橋大輔組は日本勢最上位の総合6位に食い込んだ。

【写真】高橋大輔フォトギャラリーはこちら

 ペア結成2シーズン目の2人にとって、今大会は国際公認試合のデビュー戦。北京五輪出場枠1を巡る争いで、最大のライバル小松原美里、尊組をリードした裏には意外な戦略があった。

 実況アナウンサーも村元、高橋組の滑走直前に「表現力、表現力」と連呼していたように、「高橋と言えば表現力」のイメージは強い。村元も「アクトレス」としての評価が高く、彼らがチームを結成した当初は、「演技構成点が『かなだい』(村元、高橋組の愛称)の強み」と目されていた。

 ところが今回、スコアシートを見る限り、陣営はPCS(演技構成点)の優位性よりも「丁寧にTES(技術点)を稼ぐ」という戦略を取った。

 アイスダンスのTESは非常に複雑かつ厳密だ。数シーズン前には、北京五輪メダル最有力と言われる米国のハベル、ダナヒュー組ですら、容赦なく「要素」でノーカウントとなったほどである。つまり、ジャッジシステムが完璧に厳密で、出てきた点数には疑念の余地が介在しないのがアイスダンスの技術点なのだ。

「かなだい」を指導する名伯楽マリナ・ズエワコーチは、「昔の名前」で戦わせることを良しとしなかった。アイスダンスの技術点に、「輝かしい経歴」という色眼鏡やボーナスは決して付かない。

 表現力ばかりに注目が集まりがちな「かなだい」だが、実は確かな技術力に下支えされている。そこであえて技術点の勝負に持ち込み、日本の絶対王者である小松原チームと真正面から戦うことを選んだ。「(五輪メダリストの)高橋に対する忖度」「人気選手を北京五輪代表にしたいがための不正ジャッジ」などという外野の声を封じるのに、これほど真っすぐな戦術はない。

 ズエワコーチの戦略が奏功し、点数的には「かなだい」が上回ったものの、小松原チームは全日本3連覇中。前シーズンの世界選手権では31組中19位に滑り込み、見事に自力での五輪出場枠獲得を成し遂げた日本のエースだ。ビザの関係で練習拠点のカナダに入国できず苦しい戦いを強いられる中、今大会も自己ベストをたたき出す底力を見せた。

 五輪代表選考の行方は全日本選手権(12月22~26日)が終わるまでわからない。(菱守葵)

週刊朝日  2021年12月3日号