瀬戸内寂聴さん(撮影/写真部・東川哲也)
瀬戸内寂聴さん(撮影/写真部・東川哲也)

 11月9日、作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが99歳で死去した。ゆかりのある作家の佐藤愛子さんが思いを寄せた。

【写真】これは貴重!剃髪前の若かりしころの瀬戸内さんの一枚

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佐藤愛子さん(撮影・工藤隆太郎)
佐藤愛子さん(撮影・工藤隆太郎)

 私と瀬戸内さんとはそう親しい友達というわけではない。年に一度くらい、対談などの仕事がらみに会うことがあることもあれば、二、三年も顔を合せないほどの間柄です。瀬戸内さんは早くから女流文学賞などを受賞したりして、女流作家としての華やかなスタートを切っている人に私には見えていました。

 私の方といえば、文芸首都という貧乏同人誌の同人として細々と小説を書いて掲載してもらうような、その合間に自信作を文藝春秋や新潮社、中央公論社などへ厚かましく持っていってはあっさり断られるという日をくり返していたのです。

 それでもやっとこさ私は直木賞を貰って文壇のパーティに出たりすることもあるようになって、瀬戸内さんとも顔馴染みになりました。気転の利く華やかな人ですから、対談とか座談会の司会などでも大活躍して時々、私もお相手をするなどして少しずつ親しくなっていきました。その程度のおつき合いなんです。なのに、顔を合せると、「うわア、佐藤さん、お久しぶりィ……」。

 独特のかん高い歓声を上げて抱きついてくるのがいつものことで、常々ぶっきらぼうな私は対応に困って同じように高い声を上げなければならないと思ってわァわァ、アハハ、と仕方なく大声で笑うのでした。

 全く瀬戸内さんと私とは正反対の気質でした。ゆえに私は彼女に対して引き気味だったこともあります。しかし引き気味も何のその、無邪気に明るくいつも楽しそうにいそいそと振舞う瀬戸内さんにそのうち私は負けました。彼女はそういう力、おかまいなしの力を持った人です。正直で率直です。すぐに我を忘れる。つき進む。いわゆるサービス精神の泉が胸に溢れんばかりに湛えられている。人を喜ばせたい、救いたい、楽しくさせたい、そんな気持が溢れているので、時々、彼女は話を「盛り」ました。人を楽しませたいという気持の強さから話す事実とは違う方向に走ったりします。それにこだわる人もいるけれど面白がる人もいる。

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