帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長

 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「若い人の心にひびく言葉」。

*  *  *

【寸鉄】ポイント
(1)年配者から聞いた印象的な言葉を思い返してみよう
(2)私にも三つほど印象的で忘れられない言葉がある
(3)三つに共通するのは「寸鉄人を刺す」インパクト

 歳をとると若い人との距離がどんどん広がっていきます。そういう若者にどんな言葉をかけたら心にひびくだろうかと、迷うのではないでしょうか。そのときには、自分が若いころに年配者から聞いて印象的だった言葉を思い返してみましょう。私にも三つほど忘れられない言葉があります。

 まず一つ目は、私が昭和26年に入学した都立小石川高校の校長、沢登の哲っつぁんの言葉。当時の校長はいがぐり頭に白い開襟シャツ。肩にカーキ色の雑のうをかけ、のっしのっしと歩いていました。さて1学期の終業式。明日から夏休みです。沢登の哲っつぁんが挨拶に立ち、最後にこう言い放ちました。

「じゃあ、てめいら! また逢う日まで!」

 思いがけない口調に会場はどっと沸きました。その頃、前年公開の映画「また逢う日まで」(東宝)が評判になっていたのです。校長はにこりともせず降壇。私はなんといい高校に来たんだろうと幸せ感に包まれました。

 次に登場するのは、東大第一外科の清水健太郎教授。第一高等学校の野球部で活躍した人です。階段教室で授業が始まってまもなく、助手の先生が教授に一枚のメモを手渡しました。それを見るなり教授は、

「諸君! 本日の授業はこれで終わり!」

 と宣言したのです。続いて、

「皆さん、神宮球場に急いでください。ピッチャーは吉田君で、東大が1対0で勝っています。しっかり応援するように」

 と来ました。ウォーというどよめきとともに、一同おっとり刀ならぬおっとりカバンで神宮に向かったものです。

著者プロフィールを見る
帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

帯津良一の記事一覧はこちら
次のページ