劇団「のホテル」主宰として30年、役者や演出、脚本をこなしてきた千葉雅子さん。これまでの葛藤や演劇人として大切にしたいことなどを聞いた。

千葉雅子さん(提供)
千葉雅子さん(提供)

前編/ピンクは女の子の色と誰が決めた? 千葉雅子が抱く“女らしく”の違和感】より続く

*  *  *

 今やSNSなどでは、物事をすべて「高評価」と「低評価」、「共感」と「反感」などの二元論で語りがちだ。でも、千葉さんは演劇人として、「きちんと言葉を選んで、ちょっとずつでも、考えていることを表明したり、問いかけたり、分かち合えたりしたらいい」と考える。20代のあの頃から30年以上が経ち、50代最後の年になっても、相変わらず揺れているのだ。

「劇団のゴールですか? それが……ないんです(笑)。大きな目標を掲げるというよりは、新作を作ることが一番大事なこと。みんなが一丸になって作る、自分たちしか提示できない世界を作りたいという思いは、劇団員がそれぞれ抱えていて、多分それが、まだ完成してないんでしょうね」

 30年の歩みの中で、辞めようと思ったことはないのだろうか。

「それは、常にあります。毎回、自分の無力さに打ちのめされて、次の作品を作るときになっても、その恐怖心は消えない。でも、闘っているうちに、それを超えてくるような感情……うまく言葉で表現できないけれど、楽しさとか幸せに近い感覚が生まれて、辞めたいなんていう気弱な思いが、演劇の魅力に負けるんです。そういう瞬間に巡り合えると、心強くいられる。芝居は、大勢で作り上げるものです。舞台限りで消えていくという潔さも含めて、自分の身に合っているし、今ここで生きているという実感が持てているのだと思います」

(菊地陽子、構成/長沢明)

千葉雅子(ちば・まさこ)/1962年生まれ。東京都出身。劇団「猫のホテル」主宰。作・演出、役者も担当。俳優として、「はえぎわ」「THE SHAMPOO HAT」「モダンスイマーズ」「イキウメ」「阿佐ケ谷スパイダース」など他劇団への客演も多い。2005~11年には村岡希美らと「真心一座身も心も」を旗揚げ、座付き作家兼シリーズ物の主演も務めた。

週刊朝日  2021年10月15日号より抜粋