田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社
田原総一朗・ジャーナリスト (c)朝日新聞社

 ジャーナリストの田原総一朗氏は、岸田文雄氏が下馬評を覆し、自民党総裁に選ばれた理由を語る。

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 自民党総裁選は予想されていたとおり、岸田文雄氏が当選した。

 ただ、1回目の投票でも岸田氏が首位となったのは意外だった。しかも、議員票では高市早苗氏が河野太郎氏を抜いて2位となった。

 新聞やテレビの世論調査では、ずば抜けて支持が高かった河野氏が、なぜこれほど議員、党員の票を得られなかったのか。あらためて、自民党内での安倍晋三氏の影響力の強さを思い知らされた。

 私が取材した限りでは、8月中旬までは安倍氏も麻生太郎氏も、菅首相の続投を考えていたはずである。

 ところが、自民党の多くの議員たちが、秋の衆院選は菅首相の下では落選せざるを得ないと強い危機感を抱き、何としても菅首相の辞任を、と安倍氏や麻生氏に訴え、両者の考え方が変わったのである。

 ただし、議員たちが当選するためには、国民の多くが期待する人物が総裁にならなければならないはずで、ここが今回の総裁選が従来と大きく異なることになる、と見られていた。

 従来の総裁選は、大派閥の領袖(りょうしゅう)の思惑で当選が決まっていた。安倍氏も菅氏もこのパターンで決まったのだが、今回の総裁選はそれが通用しない。だからおもしろい展開になると捉えられていて、そのために新聞もテレビも連日、総裁選を大きく報じたのである。

 出馬を表明したのは岸田、高市、河野、野田聖子の4氏で、当初は石破茂氏も出馬の意を示していた。

 私は総裁選前に石破氏と2度、電話で話をした。1度目は「ぜひ出馬すべきだ。国民の多くがあなたの出馬を期待しているよ」と強調し、石破氏は「頑張るつもりだ」と答えた。だが、2度目の電話では、「残念ながら当選できる自信がない。だから出馬は断念する。そのかわり、河野氏を当選させるために応援する」と語った。

 世論調査でその河野氏の支持率が高かったのは、これまでの自民党、もう少し言えば、安倍路線の政治を変えてくれるのではないか、という国民からの期待だったと捉えている。

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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