写真はイメージです (c)朝日新聞社
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 今は原則1割の75歳以上の医療費の窓口負担を、年収200万円以上の人は2割に引き上げる改正法が今年6月に成立した。制度を支える現役世代の負担を抑える狙いだが、国の医療費は膨らみ続け、今後さらに負担が増える可能性もある。負担増に備えるコツを専門家に聞いた。

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「これからも検査や経過観察が必要で通院しなければなりません。でも、75歳以上は医療費が1割負担でいいっていうから、あまり気をもまなくていいよね」

 茨城県に住む男性はこう話す。男性は75歳になったばかりのこの夏、前立腺がんの手術をした。毎年、地元自治体の健診を受けてきたので、幸い、早期に見つかった。前立腺の摘出手術は思っていたよりも時間はかかったが、入院も10日前後で済んだ。

「手術ロボットを使うと聞いたときは、費用が高くならないか不安もよぎりました。ところが高額療養費制度を利用すると、限度額以上は払わなくて済むという。保険も入っているので何とかなりそう」

 医療はお金がかかる。「がん」や「手術」ならなおさら。これまで大きな病気にかかったことがなく、がんと聞いてから不安を抱えて過ごしてきただけに、病院側の説明に胸をなでおろした。しかし将来にわたり、今の制度が続くとは限らない。高齢者の負担を減らす制度は、これから変わるかもしれないからだ。

 6月の法改正で、今は原則1割の75歳以上の医療費の窓口負担は、来年10月から半年以内に2割になる。対象者は単身で年収200万円(夫婦で320万円)以上に限られるが、75歳以上の人のうち20%に及ぶ。引き上げの実施から3年間は、1カ月の負担増を最大3千円までとする激変緩和措置も取られるというものの、対象者の自己負担額は1人当たり平均で年に2万6千円程度増える見込みだという。

 高齢化が進み、高齢者医療制度を支える健康保険組合の財政も余裕がなくなってきている。少子化で、支え手の現役世代も減っていく。そこで政府は現役世代だけでなく、余裕のある高齢者にも相応の負担を求める方向で改革を進めている。75歳以上の医療費の自己負担割合を引き上げる見直しもその一環だ。

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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