※写真はイメージです (GettyImages)
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『近親殺人』(石井光太著、新潮社 1650円※税込み)の書評を送る。評者は書評家の吉村博光氏。

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 日本における殺人事件が減り続ける一方、近年、割合が高まっているのが親族間殺人だ。実に半数を超えているという。なぜ家族だけが危うい状況のまま取り残されてしまっているのか。この「家族の闇」に分け入った本だ。

 本書で扱う事件は、介護放棄、引きこもり、貧困心中、精神疾患、老老介護、虐待殺人。加害者(被害者)家族のその後の人生も追っている。当事者が次第に追い込まれていく様子に胸を抉られるとともに、その後も続く辛苦に気づかされる。

 なかでも息子を父親が手にかけた引きこもり殺人は、病院などへの助けを求めながら救えなかったケースだ。自助と公助には限界がある。また地域とのつながりが希薄な都市部では共助を声高に叫ぶのも無理がある。家族と過ごす時間が増えたいま、本書がつきつける問題は重く、その緊急度は高い。

週刊朝日  2021年9月17日号