延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
黒田征太郎イラストによる東京ラフ・ファイト!のポスター (TOKYO FM提供)
黒田征太郎イラストによる東京ラフ・ファイト!のポスター (TOKYO FM提供)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は2011年に亡くなった俳優・原田芳雄さんについて。

【写真】黒田征太郎イラストによる東京ラフ・ファイト!のポスター

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 7月は俳優、原田芳雄さんの祥月だった。もう10年になる。

 線香を持って元麻布の善福寺に伺うと、境内の大銀杏から聞こえる蝉の鳴き声が360度のサラウンドだった。

 芳雄さんゆかりの人たちが冷たいミネラルウォーターやバーボンのボトルや色とりどりの花束を手向け、「芳雄さん、久し振りです」と手を合わせた。

 芳雄さんの遺作となった『大鹿村騒動記』の原案を書いたことで僕の人生が大きく広がった。僕の小説の主人公「風祭善(かざまつりぜん)」そのままの名前で演じてくれた時は、こんなことが人生で起こるのだと思うほど嬉しかった。

 南アルプスを望む撮影現場で握手し、なんて柔らかい手なのだろうと改めて思ったりした。芳雄さんは映画が公開された3日後に亡くなった。

「とにかく来る人は拒まず、酒をいくらでもふるまう人だった」

 村上龍さんに紹介してもらってから何十年来の親友、勝りんこと俳優の勝村政信さんが、芳雄さんとのなれそめを語ったのは、昨年の原田芳雄生誕80年特集上映後のトークショウでのことだ。

 芳雄さんは「家は楽屋だ」と若い後輩たちを自宅に招いた。居間の掘炬燵(ほりごたつ)の上には大きく「游」と描かれた板が飾られていた。好きな言葉はもう一つ、「風来去」。「風のようにやって来て、風のように去る」。夢の中で芳雄さんは居酒屋の主人を演じ、店の名が「風来去」だったという。

「初めまして。第三舞台の勝村です」
「おー。存じていますよ」

 これが最初の会話。芳雄さんの家に行くと庭にはでっかいサンドバッグがぶら下がっていた。ボクシンググローブをつけ、交代で叩きに叩いた。

「ビールでも飲むか」

 汗だくになった芳雄さんが冷蔵庫から小瓶を持ってきた。二人を囲むように次々に仲間が集まり、そのまま夜遅くまで痛飲し、そんな集まりが20年近く続いた。

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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