林:若い作家の中には、先端の分野のことを書くあまり、一般の読者を拒否するような人もいます。朝井さんは、私のような年齢の人もうまく導いてくれるのが強みじゃないでしょうか。いま苦手な分野に手を広げなくても、得意な分野だけであと20冊ぐらいは書けますよ。

朝井:20冊!? 林さんって本に対する物差しが違いますよね。20冊を「あっという間」という感覚でお話しされている気がする!

林:私がなぜこんなに書けるかというと、連載が多いからですよ。朝井さんはそんなに連載してないでしょう?

朝井:連載はちょっとコワくて、複数持たないようにしてますね。

林:新聞の連載やっていましたよね。

朝井:はい。少し前に朝日の夕刊を担当しましたが、新聞連載は初めてで、正直これは何度もできないって思ってしまいました。なんで1年間も、薄氷の上を歩くような気持ちで生きなきゃいけないんだろうと。といいつつ、また近々始めます。林さんは新聞連載、何度も何度もなさっていますよね。

林:はい。私、新聞連載やりながら週刊誌の連載小説もやったことがありますよ。

朝井 うわ、信じられない!

林:新聞連載って1回2枚半だから、行きづまったら自然の描写なんかで2、3回流せばいいんです(笑)。

朝井:(爆笑)、ほんとですか!?

林:困ったら風景描写か旅行。主人公に旅行させて、その紀行文を書けばいいんですよ(笑)。読者もちょっと一息つけるわけだし。

朝井:すごいなあ。ほんとにすごい。そのアドバイス、おまじないのようにいただきました(笑)。

林:あとで単行本になるとき調節すればいいんです。私、新聞連載大好き。原稿料もすごくいいし。

朝井:それは確かに(笑)。

(構成/本誌・直木詩帆 編集協力/一木俊雄)

朝井リョウ(あさい・りょう)/1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『何者』で第148回直木賞、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。小説に、『世にも奇妙な君物語』『何様』『発注いただきました!』『スター』など、エッセーに『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』。自身の作家生活10周年記念作品のひとつとして今春、『何者』以来、約8年半ぶりとなる書き下ろし長編小説『正欲』(新潮社)を刊行。

週刊朝日  2021年9月10日号より抜粋