朝井リョウ (撮影/小黒冴夏)
朝井リョウ (撮影/小黒冴夏)

 作家10周年記念作品のひとつとして今春、『何者』以来、約8 年半ぶりとなる『正欲』を刊行した朝井リョウさん。作家の林真理子さんが、ベテラン作家として編集者との関係や連載小説の立ち回り方などをアドバイスしました。

朝井リョウ「昼間にパスタをゆでる」というフレーズにハマる その理由は?】より続く

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林:この10年間、出版業界も様変わりして、われわれ作家にとっては厳しい状況が続きました。10年前にデビューした朝井さんは、その前のいいときを知らなかったわけですよね。

朝井:私個人で言うと、業界全体として厳しい中でもすごくラッキーな機会に恵まれたと思っています。ただ全体の空気としては、やはり同世代の人たちとの会話で本の話になることも少ないですし、厳しさが身にしみますね。

林:ああ、そうですか。

朝井:たとえば電子書籍も、漫画はものすごく売れて、漫画を読む人口は増えているという話を聞きますが、小説を読む人の広がりはなかなか感じられない。電子書籍との親和性の差も大きいと思いますが、長い時間をかけて咀嚼して物事を味わうということへの苦手意識、拒否感のほうが広がっているのかなと感じるときがあります。でも、短い動画などで小説を紹介する人は増えたと感じるので、読者と作品が出会う機会自体は増えているのかなとも思っています。

林:西加奈子さんとか、非常に元気のいい作家のグループがありますけど、私はこういう人たちが今後、若い読者を導いていってくれるんだろうな、と思って期待しています。

朝井:西さんは、「書店の小説の棚をこれ以上減らさないために、みんなで協力していこう」っていう人なんです。ライバル心よりも、みんなで棚を守っていく、むしろ増やしていく、という。私はほかの人の本が売れているとキーッてなるタイプなので、そういう考えの方はすごいなと思いますね。

林:みんなすごく仲がいいんでしょう?

朝井:毎年花見をしていたと言うと、先輩の作家の方から驚かれました。「同業者と仲よしだなんて信じられない、ありえない」って。林さんもそう思われますか?

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