原田マハ(撮影/ZIGEN)
原田マハ(撮影/ZIGEN)
映画「キネマの神様」は、8月6日から新宿ピカデリーほか全国公開 (c)2021「キネマの神様」製作委員会
映画「キネマの神様」は、8月6日から新宿ピカデリーほか全国公開 (c)2021「キネマの神様」製作委員会

 山田洋次監督最新作、映画「キネマの神様」が8月6日より公開される。たくさんの奇跡が重なって生まれた。原作は作家・原田マハさんが自身の父をモデルに描いた同名小説。ノベライズも書き上げた原田さんは、「原作、映画、ノベライズと、どういう順序で観ても楽しめます」と胸を張る。

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前編/「お色気小説で大人の世界を学んだ」 原田マハが語る父の姿】より続く

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 父・原田剛直さんが、5年前に90歳で亡くなった。『キネマの神様』は、11年に文庫になり「映画にしませんか?」というオファーも届いていた。でも、原田さんは「もしこの小説を映画にする幸運が巡ってくるとしたら、メガホンを取るのは山田洋次監督以外にない」と思っていた。というのも、原田さんが小学生のときに、父に連れられて生まれて初めて映画館で観た実写映画が「男はつらいよ」だったからだ。

「アニメ映画を見せてもらえると思って父についていくと、腹巻きしてお守りを首からぶら下げたテキ屋のおじさんがいきなり登場するので、思わず泣きそうになりました(笑)。でも、父は、『最後まで観ろ、絶対にこのおじさんのことが好きになるから』と。しばらく観ていたら、いろんな場面で笑ったし、涙を誘う場面では、意味もわからずほろっときた。最後に寅さんが去っていくとき、客席から『よっ、寅さん!』と声がかかるのも、まるでライブのようで。すっかり私は渥美清さんの大ファンになり、帰りがけ父に、『寅さんのポスター買って!』とねだっていました」

 寅さんの生き方は、剛直さんに重なるところがあった。セールスをして日本全国を回り、家族に迷惑をかけるけれど人情に厚い。調子が良くて、適当なことを言って場を盛り上げる……。憎たらしく思う気持ちはあっても、「一生会えない」と思うと、かなしく、さびしい。そんなことを想像するだけで泣けてきた。

「山田監督に映画化していただけるのであれば、どんな形になろうともそれはきっと素晴らしいものになるだろうという確信がありました。父が亡くなった翌年に、雑誌の企画で、お目にかかりたい芸術の世界の先輩としてお名前を挙げたところ対談が実現した。こんなチャンスは二度と巡ってこないから、勇気を出して自分が映画をテーマにした小説を書いていることを切り出したら、監督は、『読みました』と。『僕がもし映画にするならこういうふうにしたい』と、その場でアイデアを話されたんです。もう天にも昇る心地がしました」

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