2.仕事と社会とのつながり方を変える


営業職の経験と話術を生かして後進育成の講師をするなど、仕事で得た能力をベースに新しいことに挑戦する。

3.苦しかった経験をプラスに役立てる
病気、事故、被災体験、家族問題などに正面から向き合い、そこから新たな自分を知る。

「ただし自分を振り返るだけでは不十分。『本当の自分を探す』という言葉をよく聞くが、固定した自分などはなく、あるのは各自の可能性。新しい居場所を見つけるには、まず行動する。そして自分について人に語ることの二つが鍵になります」

 起業は不安、趣味などを始める気力もないという人もいるだろう。そういう場合、楠木さんは「もう一人の自分」をつくることを勧めている。

「私自身、40代後半で体調を崩して休職した経験がありますが、50歳から『楠木新』というペンネームで取材・執筆活動を始めたことが、人生の大きな転機となりました。始めてみて気付いたのが、いかに自分の本名に行動が縛られていたかということ。会社員という唯一の枠組みの中に自分を押し込んでいた。少しずつでよいからその枠組みを取っ払ってみることも大切です」

 また、自分のことを語るのは、次のステップの道筋をつくり、新しい人間関係を築くきっかけにもなる。

「出会いの交差点に立つためのポイントは四つ。今いる組織と距離を置き未知の領域に一歩踏み出すこと、自らの意見や主張を発信すること、自分から先に相手に与えること、同じ志を持つ多くの人と出会える場所に身を置くことです」

「山月記」の有名な一節には、こんな続きがある。

「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己のすべてだったのだ」

 後悔しないためにも、まず行動だ。(ライター・澤田憲)

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週刊朝日  2021年7月23日号より抜粋