「面接でも漠然と『何でもできます』と言う人は意外に多い。自分は何ができて、何をしたいか、そして職場や社会にどう役立つのか。基本的なことですが、しっかりと伝えられないと雇うほうも戸惑ってしまいます」

 また、収入や資産次第で必ずしもフルタイムで働く必要はない。

「年金やアパートの賃貸料など定期的に得られる収入や、退職金や金融商品といった資産に対し、生活費などの支出はどのくらいか洗い出してみましょう。すると、何歳までに月々どの程度の収入が必要かがわかる。自分に合った働き方もおのずと浮かび上がってきます」(松本さん)

 40~60代を中心としたミドル・シニア世代の採用に特化した求人情報サービスを展開する「マイナビミドルシニア」の篠崎護編集長は「えり好みをしないことが大事」と強調する。

「50代以上の方は、ひとつの組織に帰属して働きたい意識が強い印象です。同じ会社に長く勤め、スキルに自信があると感じている人ほどその傾向が強い。しかし、老後のお金の足しに、という目的なら『やりたい』より『できる』仕事を優先すべきです」

 篠崎さんによれば、シニア向けの求人は一見、単純な仕事が多いように感じられて、実は誰にでもできるものばかりではない。たとえばマンション管理人は若者が就くことは少なく、収入もそれほど高くない。だが住人と日常的なコミュニケーションが求められ、トラブルの際は物腰やわらかな対応が必要だ。

 建設関係や電気、空調設備などのビル管理業務を中心に、シニアに特化した人材派遣サービスと人材紹介を手がける「マイスター60」広報担当の神田清一さんも、「シニアの強みは高い専門性と勤務形態の自由が利きやすい点」と強調する。

「シニアの方たちはマナーがしっかりしていて、コミュニケーション力も高いので安心感がある。現役時代のキャリアや役職にこだわらず、物事をポジティブにとらえる人はうまくいきやすい。現役時代より条件が良くないことも多いですが、前向きに仕事をすれば新しい考え方やスキルも身につき、同僚や上司からも重宝してもらえます」

 マッチングサイトやシェアリングサービスのやり取りでも、丁寧で常識的な応対が高評価につながる。

 世の中の動きや自らの現状をしっかり踏まえれば、道は開ける。恐れることはない。(本誌・池田正史)

週刊朝日  2021年7月23日号より抜粋

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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