球磨村の山間部には、木を皆伐した森が多い
球磨村の山間部には、木を皆伐した森が多い
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(週刊朝日2021年7月16日号より)
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(週刊朝日2021年7月16日号より)
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 令和2年7月豪雨では、本県の球磨川の氾濫(はんらん)などで九州や中国地方を含め80人以上の死者を出した。この時、九死に一生を得た熊本県人吉市在住の70代女性が言う。

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「駐車場に水が来ていると思ったら、一気に水位が上がり、あっという間に首の高さまで水が来た。救助隊の人と携帯電話がつながり『部屋の外と中の水位が一緒になったら窓が開くから、落ち着いて外に出て』と言われた。それで外に出られて、何とか助かりました」

 球磨川は「暴れ川」と呼ばれるほど氾濫を繰り返してきたが、昨年7月の豪雨は経験したことのないものだったという。

「水が黄色かった。私は1982年の水害も経験していますが、その時の水は透明でした。こんなに泥が混ざった雨は経験したことがありませんでした」(前出の女性)

 なぜ、泥の混ざった水が大量に発生したのか。球磨川流域の豪雨被害について調査している自伐型林業推進協会の中嶋健造代表理事は言う。

「土砂崩れが始まった場所のほとんどは森林が大規模に伐採された『皆伐(かいばつ)』の跡地。森が保水力を失って表土がむき出しになり、土砂災害を誘発したと考えられます」

 皆伐跡地から土砂災害が発生した痕跡は、グーグルマップの衛星写真でも確認できる。中嶋氏は衛星写真を精査し、球磨村内の土砂災害の発生源をすべて調べた。その結果は驚くべきものだった。

「日陰の影響で確認が難しい箇所を除くと、崩壊箇所は183。そのうちの9割以上が、皆伐地や林業をする時に使用する林道や作業道を起因とする崩壊でした」(中嶋氏)

 なぜ土砂崩れを誘発する皆伐が横行しているのか。背景には、政府が「林業の成長産業化」と称し木材自給率50%達成を目標に掲げていることがある。19年の自給率は37.8%。前年比で1.2ポイント上昇したが、目標である25年までの達成は困難な見通しだ。中嶋氏は言う。

「自給率目標を達成するため、政府は巨大な高性能林業機械に多額の補助金を出し、事実上、皆伐を奨励しています。高性能林業機械を使うには幅の広い林道や作業道が必要で、それが崩壊の原因の一つになっています」

 豪雨の発生は防げないものの、それに伴う土砂災害には「人災」も含まれる可能性があるのだ。

週刊朝日  2021年7月16日号