春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「変異型」。

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「変異型」「変異種」「変異株」と聞くとこのご時世、アイツのせいでいやーな気分にさせられる。ポコポコポコポコと変わり種が生まれやがってホント面倒くさいヤロウだ。

 でもウイルスも生物。己が生き残るために変異しまくるらしい。「あー、もうホントはこのままで居たいのに……また変わんなきゃいけないのか……しゃーねーなぁ、もう一丁変わってみっか!!」と、旧態依然とした私のような落語おじさんに比べれば、ウイルスはかなりフットワークが軽い。落語家はよく高座で「あいも変わらずお古いところで一席お付き合い願います……」などと言う。私もけっこう使うことがあるのだが、これもしコロナに聴かれたら「そんな古臭い常套句まだ使ってんすか、はは」と一笑に付されるだろう。「そんなんでこの世の中、生き残れっと思ってんすか?」とか言われるかもしれない……黙っとけ、このポッと出ウイルスめ! 「あいも変わらず」の素晴らしさがお前らにわかるか!?

 で、ですよ。こいつらのせいで今、我々のホームグラウンド『寄席』がピンチです。ハッキリ言って経営難です。緊急事態宣言下でもなんとか定員の50%で営業してますが、お客様はそんなに入りません。出演者のほうが多い時もあるくらい。前年同月比でマイナス50%ほどの収益らしい。寄席はほぼ個人経営、一度閉じてしまったら再開再建は不可能でしょう。本気でマズイ。いつも、そこに、あいも変わらずあるはずの寄席が無くなってしまうかもしれない……。

 そこでニュースでも取り上げられましたが、落語協会と落語芸術協会が手を組んで『寄席支援クラウドファンディング』を立ち上げることになりました。別に仲が悪いわけじゃないけど、いつもは共闘することはない2団体。でも黙って寄席の危機を見てるワケにはいかないということです。我々も変わらなきゃならない。「クラウドファンディング設立記者会見」に私も登壇したのですが、「寄付を募る」なんて本来粋を旨とする芸人としては野暮なことかもしれません。でもね、コロナは粋とか通じないからねぇ。突然変異で「鮫小紋」柄の乙なウイルスとか現れたら別ですが。あいも変わらずオカミはぼんやりしてますから、それなら野暮を承知で落語を愛する皆様の善意にすがろうかと。ただ本当に集まるかなぁ……と心配してましたが。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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