※写真はイメージです (GettyImages)
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 作家・長薗安浩氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、虎尾達哉著『古代日本の官僚』(中公新書、840円・税抜き)を取り上げる。

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 公文書偽造、倫理規程違反、コロナ禍宴会、国会提出法案の誤記……数年前から現在もつづく官僚の不祥事にほとほと閉口している最中に、『古代日本の官僚』なる新刊本が現れた。副題には<天皇に仕えた怠惰な面々>とあり、思わず手に取った。

 この本が取り上げる「古代」とは、飛鳥時代後半から平安時代前期のこと。中国(唐)から輸入した律令に基づく「専制君主国家」体制をとり、強力な執政を支える官僚機構が不可欠となった時期だ。特に、クーデター(壬申の乱)によって覇者となった天武天皇は新たな官僚たちを必要とし、登用制度を導入してまで大量の「律令官人」を生み出した。

 しかしながら、彼らは勤勉でも、規律正しくもなかった。中でも下級官僚は、日々の職務をしばしば放棄するだけでなく、天皇が臨席する重要な儀式すら無断欠席した。著者の虎尾達哉は『続日本紀』などの史料にあたり、その実態を次々と紹介。専制君主国家の本家である唐であれば死罪になるような事例も多いのだが、政府の対応は一貫して寛容だった。

 なぜか? 虎尾は、天武朝から急増した下級官僚が<粗製濫造>だった点を認めつつ、<中国の礼のような儒教的な社会規範が欠如していた>ことを根本的な理由とした。そして、国の方も、彼らの怠業・怠慢をある程度は見込んでいたことに言及し、古代日本が<現実的でしたたかな>国家だったと総括する。

 勤勉実直を美徳とする儒教的社会規範は、江戸時代以降に浸透したらしい。こうして古代日本の内実を知ると、現在の官僚たちに同情する虎尾の気持ちも理解できるが、それとこれとは、やはり別問題だろう。

週刊朝日  2021年4月30日号