「脚本を書かれた倉本聡先生がクニさんを主人公に抜擢(ばってき)した理由もそこにあったんじゃないでしょうか。先生から信頼され、スタッフに慕われ、実の親のように子どもたち・純(吉岡秀隆)と蛍(中嶋朋子)を可愛がってましたから、2人とも伸び伸びと演技ができた。言い過ぎかもしれませんが、クニさんがいなかったら、『北の国から』は、あれほどの名作にはなっていなかったんじゃないかと思います」

「駒草」のカウンターで、こごみにしなだれかかられた五郎が赤面するシーンも印象的だ。

「演技ではなく本当に照れてるかのようで、私まで“愛おしくて放って置けない”って気持ちになったものです。あの時は思わず素になってましたね」  

 もう一つ、忘れられないことがある。

 83年夏のことだった。自宅にいると突然、田中さんから電話がかかってきた。

北海道からでした。お久しぶり、て話をしてたら、(高倉)健さんと代わったんです。『とても素敵です。応援してます』って思いがけないことを言われたのを今も忘れません」  

 高倉さんは、「北の国から」のこごみファンで、当時、映画「居酒屋兆治」で共演していた親しい田中さんに頼み込んで、ロケ先から電話をさせたのだ。  

「今となっては良い思い出。今頃は、7年前に亡くなった健さんと天国で映画の思い出話をしてるかもしれませんね」  

また一人、昭和の名優が星になった。
(高鍬真之)

※週刊朝日オンライン限定記事