林:あそこは台本になかったんですか。

シム:はい。この映画は1年間かけて撮ったんですが、1年間ずっと富司さんと一緒に撮りながら、富司さんのたたまずい?

林:たたずまい。

シム あ、たたずまい(笑)。富司さんのたたずまいや動作、それまで一緒に過ごした時間、いろんなことが重なって、思わず涙が出てきました。

林:シムさんは蒼井優ちゃんが好きだってどこかでおっしゃってたけど、ああいう透明感とかピュアな感じが、蒼井優ちゃんと似てるなと思いながら見ました。

シム:ああ、うれしいですね。蒼井優さんは大好きな憧れの女優さんで、日本の映画が好きになったきっかけも蒼井さんなんです。「リリイ・シュシュのすべて」(01年)とか……。

林:岩井俊二監督ですね。あれは見てるとちょっとつらくなるような映画でしたけど、韓国でも上映されたんですか。

シム:岩井俊二さんの映画は韓国でも人気で、「Love Letter」は今も愛されている映画です。「リリイ・シュシュのすべて」も人気がありました。

林:「リリイ・シュシュのすべて」は、いじめ、恐喝、自殺など、社会の闇の部分を描いて過激なシーンがたくさん出てきますよね。私は少年や少女をここまでいたぶらなくてもいいのに、とも思いましたよ。

シム:うーん、そうですね。今は私もそうした社会問題をどう受け止めたらいいかシリアスに考えていますけれども、この映画を最初に見た中学生だったころは、なぜだかとても共感できました。思春期のころは、なんて言うかな、自分の世界に入り込んじゃうから、そのころのつらさとか切なさを、リリイ・シュシュの音楽を聴きながら癒やされるというところに共感できました。

林:なるほどね。

シム:私自身、思春期なりのつらさもあって、そういうつらさとか痛みが美しく描いてあったので、泣きそうになったり、切なくもなって、複雑な気持ちになって“どハマり”でした。「自分の話なのか?」と思うぐらい。今は別の目線で見ちゃいますけれども、当時の私にとっては本当に大切な作品でした。

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