ワクチン輸出は単なるビジネスや人道支援ではなく、昨年の「マスク外交」に続く中国の世界戦略の一環だ。1997年から中国共産党の党大会や全国人民代表大会を取材しているジャーナリストの徐静波氏は言う。

「ここ数年間の中国共産党の党大会や全人代を取材して感じるのは、記者が世界中から集まってくるということです。アジアはもちろん、アフリカや南米の国からも来る。どの国も中国との経済的な関係を望んでいるからです」

 中国は広域の経済圏構想「一帯一路」を掲げていて、その射程は世界に広がる。「中国は旧ソ連のように軍事力だけに頼って他国を支配しようとはしない」(外務省関係者)というのが、専門家の共通した見方だ。

 ワクチンを巡る政治的駆け引きが各国で繰り広げられるなかで、日本はどうしているのか。

 自国内でワクチンが生産できない日本は、国際貢献のために途上国へのコロナワクチンの公平な分配を目指す「COVAXファシリティー」に参加している。茂木敏充外相はすでに合計2億ドル(約210億円)の拠出を表明した。

 だが、COVAXはWHOが主導する国際的枠組み。中国のように「一対一」で顔の見える支援をするわけではなく、日本の存在感を高める効果は薄い。与党内には「COVAXのみの国際支援では中国のワクチン外交に負ける」との懸念も広がる。

 中国のワクチン外交という“アメ”には“ムチ”もセットになっている。台湾の蔡英文政権は2月4日、南米のガイアナに事実上の大使館となる「台湾弁公室」を設置すると発表した。ところが、ガイアナ政府はその合意を一方的に破棄したのだ。

 実は、ガイアナは1月末、中国から2万回分のワクチンの提供を受けることを表明していた。台湾との合意破棄は、台湾を自国の領土と主張する中国が、ガイアナに圧力をかけたとも言われている。台湾の外交部は、「またしても中国政府が国際舞台で台湾をいじめ、抑圧したことに最大限抗議する」とのコメントを発表したが、ガイアナは方針を変更する姿勢を見せていない。官邸関係者は「経済力の高まりとともに、中国が力を誇示することをためらわなくなっている」と警戒する。

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