日本では特に、声を上げる女性が誹謗中傷を受けることも多い。『ナニカアル』の中での芙美子も、男性が主導権を握る文壇の中でにらまれ、さ


まざまな陰口をたたかれている。

「芙美子は『出る杭』として何度もたたかれましたが、私はそういう女性が好きなんです。日本では権威のある人を批判せず、弱い立場の人をたたく傾向があり、ミソジニー(女性蔑視)も根強い。一種の弱いものイジメです。最近では、日本でも若い女性が発言するようになってきたことには希望が持てる。怒っている人に、もっと頑張ってほしいと思います」

 戦時中も現代も、しばしば「正義」は暴走する。しかも、言論の場がメディアに独占されていた時代は終わり、SNSなど新たな発信の場も登場した。再びかつての過ちを繰り返さないためには、どうすればいいのか。

「私たちは誰かに利用される危険性がある、と自覚することでしょう。誰でも発信者になれる時代だからこそ、ロープの上を渡るように『書くこと』に気をつけなければなりません」

 (本誌・西岡千史)

桐野夏生(きりの・なつお) 1951年、金沢生まれ。97年に発表した『OUT』が社会現象を起こし、日本推理作家協会賞を受賞。99年、『柔らかな頬』で直木賞。『ナニカアル』で島清恋愛文学賞(2010年)と読売文学賞(11年)を受賞。最新刊は『日没』(岩波書店)

週刊朝日2月26日号より