「あるとき、バイクに乗らなきゃいけない映画の撮影が控えていた僕に、『これ、使いなよ』って、気前よくカワサキのバイクをくれたのが伴明さん。僕は免許持ってなかったんだけど、当時は暴走族のリーダーみたいなイメージだったから、そういう役がきちゃったの(笑)。慌てて免許取ったら、今度は『一緒にバイクやろうよ』って。そこから、『TATTOO<刺青>あり』に出ることになったり、風間(深志)っていうプロの冒険家と一緒にチームを組んで、フランスの耐久レースに出たり。いろいろ深入りしましたね」

 酒飲みの伴明さんとは違い、宇崎さんは下戸。「痛くない死に方」には、死期が近づいた本多が、在宅医である河田と酒を酌み交わす場面があるが、そのときの宇崎さんの酒の味わい方が、本当においしそうだ。

「酒飲みのおいしい酒の飲み方をしらふで何十年も、何十人も見ているわけ。だから、考えなくてもどうやって飲めばいいかわかるんです。以前、長岡の酒蔵で、蔵出しの大吟醸を口にしたことがあって、『これだったら、続けざまに飲めちゃうな』っていうくらい、口の中に入った瞬間、喉を通った瞬間がものすごい快感だった。『あ、酒飲みはみんなこれがしたいんだな』ってね。僕は、お猪口一杯で、急性アルコール中毒みたいなひどい酔っ払い方をするので飲まないんですけど、酒飲みの気持ちはよくわかりますね」

 死を予測していても、家族や在宅医が許してさえくれれば、大好きなお酒を一口でも二口でも飲んで死ぬことができる。「なるほど“痛くない死に方”とはこういうことか」と、タイトルとの符合に膝を打つ名場面だ。

「この映画に出たことで俺もいつかはああいう死に方をしたいな、と。ま、俺だったら、酒の代わりに『おいしいチョコレートを1枚くんない?』って言うんじゃないかな(笑)」

(菊地陽子 構成/長沢明)

宇崎竜童(うざき・りゅうどう)/1946年生まれ。東京都出身。73年ダウン・タウン・ブギウギ・バンドでデビュー。作詞家の阿木燿子とのコンビで、山口百恵など多くのアーティストに楽曲を提供。映画「曽根崎心中」(増村保造監督)で初主演。高橋伴明監督「TATTOO<刺青>あり」のほか「その後の仁義なき戦い」「駅 STATION」「上海バンスキング」「どら平太」「罪の声」など出演作多数。

>>【後編/音楽と役者に共通点 宇崎竜童「イントロまでの4カウントで、歌の役に入る」】へ続く

週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋