「おちょやん」のモデルとなった浪花千栄子 (c)朝日新聞社
「おちょやん」のモデルとなった浪花千栄子 (c)朝日新聞社

「初回を見て、もうやめようかと思ったね」

 こう話すのは20年来、朝ドラを欠かさず見てきた70代の男性だ。

 NHK連続テレビ小説「おちょやん」が11月30日から始まった。初回の視聴率は18.8%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。朝ドラとしては7作ぶりに20%を下回った。第2~4話も17%台。初回から20%を超え、高視聴率を維持した前作「エール」と比べると、地味なスタートだ。先の男性はこう語る。

「主人公・千代のモデルになった浪花千栄子は、私世代で少し知っている程度。若い人は知らないでしょう。初回のなかでの説明が不十分で、興味が持ちにくいと思う」

 千代の幼少期の話が続いているが、視聴者には共感しにくいシーンも。飲んだくれの父や千代と仲たがいする継母に向かって、千代が「どあほ」「おんどりゃあ」などと河内弁でまくし立てる。メディア文化評論家の碓井広義さんは次のように指摘する。

「千代がつらい目にあってきたことを伝えたいのだろうが、言動がストレート。朝8時からご飯を食べながら見るにはきついところがあります。いまは視聴者が引いている状況なのでしょう」

 そもそも浪花とは? 自伝『水のように』(朝日新聞出版)が詳しい。8歳で出された奉公先で芝居を知り、ゆくゆくは黒澤明や小津安二郎らの映画にも出演する女優に成長した。独学で読み書きを覚えるなどした苦労人は「自分だけの力で、私の花を開かすのや」と夢を持ち続けたという。

 朝ドラ評論家の田幸和歌子さんは「脚本を務める八津弘幸さんの展開は楽しみ」と期待を寄せる。八津氏は社会現象にもなったTBS系ドラマ「半沢直樹」の脚本を手掛けた人物だ。親に啖呵(たんか)を切る千代に、半沢を重ねる視聴者も多い。

「朝ドラの子役には健気(けなげ)さを求める人が多く、拒否反応が出ているが、成長してからの話となれば、丁々発止なたくましさが気持ちよくなるはず。八津さんは人情のあふれる作品も手掛けてきた。痛快さと人情をうまく掛け合わせられると思います」(田幸さん)

 第3週からは17歳になった千代に話が移る。実際、「千代ちゃんのたくましさに朝から元気が出る」(40年以上朝ドラを見続ける60代主婦)という声も出始めた。視聴率でも、これから“倍返し”となるか。(本誌・吉崎洋夫)

週刊朝日  2020年12月18日号

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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