※写真はイメージです (GettyImages)
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 本誌が報じてきた東京都内の高齢者施設での虐待疑惑は、加害者が逮捕される結果となった。だが、コロナ禍でブラックボックス化した施設では、多くの虐待が闇に葬られている恐れがある。内部告発を黙殺され、解雇された経験のある介護福祉士の証言から、制度のひずみを明らかにする。
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【写真】逮捕された職員は自称「竹の子族元総長」

 本誌が9月4日号で報じた東京都江戸川区の認知症高齢者グループホームでの虐待疑惑はその後、元職員1人の逮捕につながった。

 10月20日に暴行の疑いで警視庁に逮捕された元派遣職員の村松竜司容疑者(53)は、入居する90代女性を入浴介助する際、女性の頭部をバスタオルで何重にもぐるぐる巻きにした疑いが持たれている。窒息の恐れもある危険な行為だった。

 ただ、明るみに出たのはこの施設で行われた虐待のほんの一部にすぎないとみられる。本誌が報じてきたように、この施設ではコロナ禍で外部の目が届かなくなる中、複数の職員の問題行動が激化。入居者の体にこぶし大にもなる大きなあざが散見されるようになり、太ももを骨折する入居者もいた。施設内の録音記録には、複数の職員が入居者に「ばーか」などと暴言を吐く様子が残されていた。職員の内部告発を受け、施設を監督する江戸川区役所が虐待を認定して行政指導に入ったものの、入居者のけがについて誰かが刑事責任を問われる可能性は低い。

 卑劣な虐待行為が闇に葬られていく背景には、高齢者施設における内部告発の難しさがある。

「週刊朝日で報じられた高齢者施設の虐待は、加害者の逮捕にまで至った珍しいケースだと思いますよ。大半は、私が告発したケースのようにもみ消され、告発した側が逆に“消される”んです。それが現実です……」

 こうため息を漏らすのは、介護福祉士の鈴木邦弘さん(47)だ。

 鈴木さんは同僚の「虐待」行為について過去に2度の内部告発を行ったが、その都度、不当解雇を突き付けられた経験がある。

 2015年10月ごろのこと。当時、鈴木さんが働いていた有料老人ホームで、ある夜、重度の認知症だが足腰がしっかりした入居者の90代女性が大腿骨を骨折した。

「転ぶような人でないのに、骨折するなんて、何かがおかしい」

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