結局、担当者が「職員2人での告発なので動きます」と折れ、役所の調査が入ることになった。だが、約1カ月後に事態は急展開する。暴言や、介護をしてもらえず放置されるなどの被害に遭っていた可能性のある別の90代女性に聞き取りをする前日、女性が急死したのだ。死因は誤嚥性肺炎だった。

「元同僚から聞いたところによると、亡くなった日の朝食で、職員Sが珍しく食事介助をしたそうです。因果関係はわかりません。病死として処理されました。でも、もう脱力してしまいました」(鈴木さん)

 結局、鈴木さんは解雇を受け入れた。

 内部告発者を守る「公益通報者保護法」では、告発者に通報を理由として解雇、降格、減給など不利益な扱いをすることを禁じている。過去には、鈴木さんのように不当に解雇された職員が施設側を訴え、解雇は無効だという判決を勝ち得た例がある。だが、不利益な対応をした企業への罰則規定はなく、鈴木さんの勤めていたような“やりたい放題”の会社もある。

 次に勤めた認知症高齢者グループホームにも問題があった。鈴木さんは初日から威圧や暴言を目の当たりにした。

「ある女性入居者が食事の時間に、泣きながら『助けてください』と口癖のように言っていました。僕がなだめていると、フロア長が来て、『だまれ』と書いた紙をバンと机にたたきつけたんです。僕はびっくりしましたが、その紙をすぐにゴミ箱に入れました。それから僕は目を付けられたらしく、仕事を押し付けられるいじめに遭いました」(同)

 その施設では、職員が「うるさいわね」「黙って」と、入居者にきつい言葉を投げかけるのが当たり前の環境だったという。

「施設の中で幅を利かせていた古株のフロア長が日常的に暴言を吐いていたため、狭い施設の中で他の職員にも入居者を雑に扱う気風が伝染していました」(同)

 鈴木さんはフロア長の暴言を録音し、その旨を家族に伝えた。すると、そのことが知られ、コンプライアンス違反として施設の運営会社からまたも解雇を通知された。一方、フロア長の処分は厳重注意にとどまった。

「運営会社は虐待よりも、内部告発するという行為のほうをより問題視していたと感じています」(同)

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