「これは地上げ。まるで昭和の手口ですよ」
東京・秋葉原駅から徒歩数分、千代田区外神田の角地に立つ6階建てビル1階の飲食店の店員はそう訴える。
事件が起きたのは9月27日朝。上階から大量の水が流れ、ビル中が水浸しになっていた。
「水源は屋上。水道の蛇口が何者かに鋸のようなもので切られて水があふれ出し、屋上はプールのようでした。しかも屋上に穴が開けられ、そこから階下の室内に水が流れ込んだんです」(飲食店員)
すぐに消防署に連絡し排水してもらったが、犯人は不明。実は、入居者への「嫌がらせ」とも思える事件はこれ以外にも頻繁に発生しており、入居企業はすでに警察に相談し、被害届も出した。
「9月にあった最初の“水攻め”被害はもっとひどかった」と、5階で電子部品を扱う企業の代表は言う。このときは6階の床にも穴が開けられ、気付いたときには5階は水浸し。電気も通信機器も使用不能となったばかりか、商品も使えなくなった。
現在、ビルの周囲には工事用の足場が組まれ、「Aホテル新築工事」と掲示されている。テナント入居中の3社は昨年、Aホテルの関連会社であるビル所有者から立ち退きを通達された。弁護士を交え話し合っていたが、突然、ビルの所有権が別会社に移転。この会社とは連絡がとれず、内容証明を送付しても宛先不明で返送された。「幽霊会社みたいなものだった」と前出の代表は言う。
これと前後して異変が始まった。3月にエレベーターが止められると、4月には非常階段にペンキが塗られ通行不能に。5月には1階の飲食店に漏水があった。「ゲリラ豪雨並みで、3日間営業をやめざるを得なかった」と店員は語気を強める。
8月には4階の化粧品卸会社のガラスが夜間、何者かに割られる事件が発生。防犯カメラには10人ほどの集団が店内に侵入する様子が映されていた。10月にはついに、入居企業がいるにもかかわらずビルの解体工事が始まり、空きフロアの窓がすべて破壊された。
何が起きているのか。Aホテルの運営企業に取材を申し込んだが、何度連絡しても「担当者が出ている」と言うばかりで、文書での質問にも回答はなかった。所轄警察も注視しているというが、入居企業は今も“攻撃”におびえる日々だ。(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2020年11月27日号