室井佑月・作家
室井佑月・作家
イラスト/小田原ドラゴン
イラスト/小田原ドラゴン

 作家の室井佑月氏は、レッテル貼りで分断が起きている現状を批判する。

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 アメリカの大統領選についてのニュースを見ていると、共和党側から「社会主義、共産主義の国にしてはならない」という台詞(せりふ)がたびたび出てくる。たとえば、オバマケア(医療保険制度改革)に対してのその言葉だ。

 日本でもおなじようなことが起きている。市民運動的なデモ(脱原発運動、貧困撲滅運動)に参加すると、自民党の一部応援団が、

「あいつら、共産主義だろ」

 などと侮蔑的な感じでいったりする。

 政府に対する批判を述べるあたしは、パヨクというものになるらしい。

 べつになんといわれようが、どうでもいい。ただ、その言葉を投げつけられるのを見た人が、国に疑問を呈したり、声をあげたりすることをためらうんじゃないかと思うと、もう黙っていられない。

 政府の仕事はあたしたちから集めた税を、正しく使うことである。そこがちゃんとしていないと感じたら、政府にものをいうのは当たり前のことだ。生きるか死ぬか窮地に立たされている仲間がいるのに、見て見ぬふりをできる人のほうがよっぽど人としておかしいだろう。

 すべての人が虐げられることなく、最低限の幸せな生活を送れるようにと願うことが、どうして社会主義とか共産主義ということになるのか。

 日本は資本主義だ。血税の無駄遣いをやめ、弱者を助けることにしたら、共産主義や社会主義になるのか。なるわけがない。

 そして、日本は民主主義だ。個人の自由が尊重され、市民が主役だ。デモなどを行うことはなんら、この国の主義主張に反してはいないのだ。

 でも、あたしが普段、このような思想や主義について真面目に考えているかというと、それはない。

 みんなだってそうじゃないのか。

 それに「おまえは向こう側」と簡単にいってくる人たちが、真面目にこの国の思想や主義を考えているかというと、そこも疑問だったりする。SNSなどでの主張はとても幼い。一方的にそうレッテルを貼り付けることによって、憂さ晴らしをしているだけとしか思えなかったりして。

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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