落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「イクメン」。
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次男が保育園のとき。NHK BSの「おとうさんといっしょ」という番組に一視聴者として出演した。たまたま出演するはずだった親子がダメになったのだろうか。よかったら、と声をかけられ「文京区 川上さん親子」としての共演。紙風船を使って子どもと「しりとりバレー」をするコーナーだった。
私「りんご」次男「ごはん」終了。私「理科」次男「缶」終了。私「りす」次男「スナップえんどう」私「牛」次男「死神」私「みかん」終了。たまたま観た先輩から「サイコーだったよ」とお褒めの言葉を頂いた。わざとじゃないのに。親子でしりとりが下手なのだ。でも少しだけ『イクメン』気分を味わった。
長男が生まれた15年前。私は仕事がまるでなかった。保育園にもなかなか入れず、カミさんだけが働きに行く。だから『イクメン』にならざるを得ない。やりたくてやってるんじゃない。いわば『しかたなイクメン』。
暇な落語家は朝から赤ん坊をベビーカーに乗せ、街中をグルグル徘徊する。首を左右にカクカク振って、覚えたての落語をブツブツ呟きながら、公園へ。知らずにママさんたちの輪に突入していくと、蜘蛛の子を散らすように子どもの手を引いてみんな逃げていく。ブツブツカクカクグルグルブツブツカクカクグルグルしながら、一日が終わる日々。おかげで沢山の落語を覚えることが出来ました。
長男が5歳くらいのとき。預けるところもなく『しかたなイクメン』は寄席の楽屋に連れていった。「パパはこれから落語のお仕事だから空いてるお椅子に座ってなさい。静かにしてるんだよ」「はーい」といって国立演芸場の最後列に座らせておいた。
後輩が高座から降りてきて、「兄さんとこの子、気になってしょうがないす」とこぼす。私が上がると息子は上下運動を繰り返している。体重が軽いから座面が浮き上がってしまう。お尻をモニモニ動かして戻してもまた跳ね上がる。私の持ち時間の15分、ずーっとそれを繰り返していた。なるほど、気になる。