朝井リョウ (撮影/写真部・高野楓菜)
朝井リョウ (撮影/写真部・高野楓菜)

 作家デビューから10周年を迎えた朝井リョウさんの記念作品『スター』(朝日新聞出版/1600円・税抜き)が刊行された。

 YouTubeをはじめ、アマチュアが続々と参入している映像の世界を舞台に、時代の大きな動きを感じさせる長編小説だ。

「新しいことを書いたというより、普遍的なことを今の言葉やアイテムを通して書き直している感覚です。人間の本質的なところは意外と変わっていないのだと思います」

 2人で監督した映画が賞をとった尚吾と紘は、大学を卒業して別々の道を歩き始める。

 正統派の映画監督のもとで経験を積む尚吾(しょうご)。対して自分の感性を頼りに撮影する紘(こう)の映像はYouTubeで再生回数を伸ばしていく。

 時間と金をかけて作られる映画と、誰でも公開できるが質は担保されないネット動画。当然、映画のほうが上という従来の価値観を激しく揺さぶるドラマが展開する。

 31歳の朝井さんは尚吾と紘のどちらの立場も理解できるという。

「一方を礼賛したり否定したりするのではなく、読者が両方の考え方を行き来しながら読み進められるように意識しました」

 朝井さんは幼い頃に物語を書き始め、小学3年生になるとパソコンで長編小説を書いた。担任の先生は便箋にびっしりと感想を返してくれた。

「遠い世界にいると思っていた大人が小説を通してちゃんと向き合ってくれたことが衝撃的で、結局、あのときの喜びを今も追っているような気がします。その後も小説を書くことを面白がってくれる先生がいて、ラッキーだったと思っています」

 中学の夏休みの自由研究も小説。当時はやっていた『バトル・ロワイアル』の影響で、クラス全員が殺し合う話を実名入りで書いたときは職員会議にかけられたが、国語の先生の応援演説で金賞に輝いた。高校でも担任に背中を押され、早稲田大学では作家の堀江敏幸さんのゼミに入った。

 23歳で早々と直木賞を受賞し、作家生活が10年を過ぎた今も、「文章でメシ食ってるー」と思うことがあるそうだ。

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