「いまだに信じ切れていなくて、ずっと留学中みたいな気持ち。いつか効力が切れて元の人生に戻るのではと。偶然が重なって奇跡的なことが続いているような気持ちです」

 執筆にはスタンディングデスクを使い、午前中2時間、午後3~4時間、おやつの羊羹でエネルギーを補給しつつ集中する。小説を書くことは取捨選択の連続だという。

「このシーンを書くか書かないか、この人の気持ちを今書くか、後で書くかというように、ずっと選択をしている。なので、ある程度続けていると疲れてしまって、夜はメールを返すなど作業的な業務をしています」

 10周年記念作品には白版と黒版の2作品がある。この『スター』は白版で、読み心地のいいエンターテインメント。人間の性欲をテーマに書き下ろす黒版『正欲』は来春発売の予定だ。(仲宇佐ゆり)

朝井リョウ(あさい・りょう)/1989年、岐阜県生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年に『何者』で直木賞、14年に『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。近著に『どうしても生きてる』など

週刊朝日  2020年10月23日号