会見で辞意を表明する安倍前首相 (c)朝日新聞社
会見で辞意を表明する安倍前首相 (c)朝日新聞社

 小説家・長薗安浩氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『ほんとうのリーダーのみつけかた』(梨木香歩著、岩波書店 1200円・税抜き)を取り上げる。

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『西の魔女が死んだ』や『家守綺譚』で知られる作家、梨木香歩。彼女が5年前に行った講演の内容を中心に編まれた『ほんとうのリーダーのみつけかた』の根底には、日本の現況に対する危機感が満ちている。

 それは、今般のコロナ禍でも露わになった同調圧力の強さと<言葉のほんとうの意味も考えず、さして慈愛の気持ちも持たずに、型どおりに>繰り返されるリーダーの発言に起因している。インパクト重視で聴衆の気を惹こうとする空疎な、現実と乖離した言葉の連発、乱発。

<今の政権の大きな罪の一つは、こうやって、日本語の言霊の力を繰り返し繰り返し、削いできたことだと思っています>

 政治は結果だと語っていたリーダーは、この国の憲政史上最長の在任期間を誇りながら、言いっぱなしの言葉をそこかしこに残したまま辞任した。その結果、私たちの<大地の力のようなもの>である母語はずいぶん力を失ってしまった。

 この惨状を打破するためにも、私たちはほんとうのリーダーを見つける必要がある。それは、自分が所属する大小の「群れ」の中で個人でいつづけるためにも不可欠なのだが、いったい真のリーダーはどこにいるのか。梨木はこう明言していた。

<自分のなかの、埋もれているリーダーを掘り起こす>

 自分という「魂」を存続させつつ群れの中で生きられるよう、内なるリーダーを見出すこと。梨木はその方法も具体的に語り、この困難な時代を生き延びようと説くのだった。

 一方、日本語の力を削ぎつづけた<今の政権>を引き継ぐという政治家が先週、新しい総理大臣になった。5年前の梨木の提言がやたらと響く秋である。

週刊朝日  2020年10月2日号