菅氏と二階氏に共通する強さは、政局への大胆さと抜け目なさだ。

 元々、安倍首相は後継に岸田文雄政調会長をと考え、ステップとして岸田氏を幹事長に据えようとしていた。「力の源泉」である幹事長ポストを奪われそうになった二階氏は反発。岸田氏への禅譲に否定的な菅氏とともに、表向きは安倍首相への忠誠を守りつつ「岸田追い落とし」の機をうかがっていた。

 転機は今年4月。政調会長としてコロナ対策をまとめる立場にあった岸田氏は「減収世帯への30万円給付」を主導したが、これに反発した二階氏が公明党を巻き込んで押し返し、「一律10万円給付」にひっくり返したのだ。岸田氏の面目は丸つぶれとなり、その頃から安倍首相も「岸田禅譲」に消極的になったとされる。

 この時期、菅氏は今井尚哉首相補佐官らと対立してコロナ対策の一線から外れていたが、5月に二階氏主導で検察庁法改正案を政府に断念させた際は、二階氏は菅氏に真っ先に情報を伝えた。

 安倍首相の体調不良がささやかれるようになった7月には、菅氏と二階氏は次の展開への布石を打っていた。二階氏の周辺がこう話す。

「二階さんは『私は菅さんと会っているけど、菅グループの幹部とは会っていないな』と言って、二階派幹部と菅グループの幹部で集まった。その時点で、『ポスト安倍』についても話は出たが、菅さんはあくまで出馬については触れなかった。ただ、二階派幹部は菅さんにギラギラした雰囲気を感じたそうです」

 8月28日、安倍首相が電撃的に辞任を表明し、権力闘争の火ぶたが切って落とされる。菅─二階同盟の動きは「電光石火」のごとく素早かった。

 二階氏は28日午後の党役員会で総裁選のあり方について幹事長への一任をとりつけ、党員投票抜きの総裁選への流れを作る。29日には、菅氏は二階氏、林幹雄幹事長代理、森山裕国対委員長と極秘に会談。30日午後には早くも二階派の「菅支持」が報じられた。

 この時点では、安倍首相の出身派閥で党内最大勢力を誇る細田派の出方次第で岸田氏にも勝利の芽があった。だが、ここで「布石」が効いてくる。

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二階氏の「見せ球」だった石破元幹事長との接近