「京都ぎらい」から5年…「ネタバレ」しても面白い“京都シリーズ”完成の域に (1/2) 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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「京都ぎらい」から5年…「ネタバレ」しても面白い“京都シリーズ”完成の域に

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小谷野敦週刊朝日#読書
※写真はイメージです (GettyImages)

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京都まみれ井上章一(いのうえ・しょういち)/1955年、京都府生まれ。国際日本文化研究センター所長。著書に『つくられた桂離宮神話』『関西人の正体』『京都ぎらい』など多数

京都まみれ
井上章一(いのうえ・しょういち)/1955年、京都府生まれ。国際日本文化研究センター所長。著書に『つくられた桂離宮神話』『関西人の正体』『京都ぎらい』など多数

 国際日本文化研究センター所長の井上章一さんといえば、ベストセラー『京都ぎらい』。それから5年、このほど『京都まみれ』(朝日新書)を上梓した。ネタの面白さもさることながら、独特の語り口もこの本のよさだという。作家・比較文学者の小谷野敦さんが論評する。

【『京都まみれ』の書影はこちら】

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 井上章一は、5年前に新書『京都ぎらい』を書いてベストセラーになった上、『中央公論』の新書大賞で投票によって1位を獲得した。井上は京都の出身だが、嵯峨の出で、今では宇治に住んでいる。そして京都の中心部「洛中」に住む人びとの中には、洛外は京都ではない、と決めて恬淡と差別する人がいる、ということを井上調で糾弾した書である。

 だが、この題名は京都人にはショッキングだったらしく、京都のさる書店では「ほんとうは好きなくせに」などというポップを作ったという。アマゾンの読者レビューでも賛否両論で、そのため総合点数は5点満点中3点くらいになっている。

 2匹目のどじょう狙いで『京都ぎらい 官能篇』が出たが、これは面白くなかった。失敗した。だが5年たって出た『京都まみれ』には、まったく瞠目した。頭からしっぽまであんこが入った鯛焼きのように、まったく二番煎じ感がない。まだこんなにネタがあったのかと感動した。「ダイ・ハード」より「ダイ・ハード2」のほうがすごいみたいである。

 しかし、推理小説に「ネタバレ」があるのと同じように、ノンフィクションもまた、おいしいところをかいつまんで紹介すると、あとで読んだ人から、面白いところはみんな先に聞いていた、と言われることがある。それに、この本のよさは、3割くらいは、井上のあの独特の、人を食ったような語り口によっており、あの語り口だから面白いという面もある。円熟の境地である。

「京田辺市」という市名について語られている部分がある。日本では「河内長野」とか「大和郡山」のように、すでに長野市や郡山市が別にある場合、旧国名をつけて市名にするという例がある。現在の舞鶴市は、もとは田辺だったのが、和歌山県に田辺市があるため、田辺城が鶴が舞うように見えたので舞鶴城といわれていたことから舞鶴市になった、と本書にある。だが旧国名の例を使えば、丹波田辺市で良かったはずだ。京田辺市も、同じように山城田辺市が妥当だったはずだ。それがなぜ京田辺か、井上は考察している。京都があるのは山城国だが、不思議とあまり山城という地名を聞かない。「西東京市」という新しくできた市名や、「東銀座」という駅名についても、井上の解釈が楽しい。


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