ところで、豊島区はなぜ、ホストクラブのPCR検査に特に力を入れているのだろうか。豊島区の池袋保健所健康推進課に尋ねると、担当者はこう語った。

「業種をまるごとPCR検査しているのはホストクラブだけです。1店舗で集団感染もあったものですから、リスクの高さを感じてホストクラブ業種を検査しています。他の業種はやっておりません。キャバクラの従業員は何人か検査したことはありますが、キャバクラ業種全店舗の検査ということはしていません」

 検査に必要な経費は区が負担するという。

「保健所の近くで場所を設定して、ホストクラブの従業員の予約を取って、順番に一人一人、検体をとっています。拒否する店はないんですが、返事がまだないところがあり、お返事は保留だなと思っています」

 一方、こうした区の方針に対し、ホストクラブ側からは不満の声も漏れた。まず、10日以上休業した場合に50万円を協力金として出すという区の方針に対しては、前出の30代の運営スタッフはこう語る。

「休業要請があれば従いますが、10日以上休業して50万円じゃ、全然、うれしくはない。うちは家賃だけで月に200万円から300万円かかっているんです」

 前出の20代の運営スタッフは、ホストクラブが諸悪の根源のようにターゲットのように扱われていることに不満があるようで、こう話す。

「夜の職業に対して偏見があるんでしょう。ホストクラブはもともと悪いイメージなので。あとは話題として面白いから、やり玉にあげられてるんじゃないですか」

 店ではテーブルごとに消毒液を置き、検温もしている。内勤スタッフの一人は、感染症対策には自信を持っているとして、こう話した。

「PCR検査を受けているか、わけわかんない店よりも、ホスト全員が受けたうちのような店のほうが、お客さんの女性からも安心できると言われています。小池百合子さんにも一度、店に来てもらいたいですよ。これだけ、うちは対策をとっていることを見てもらいたい」

 いつの間にかコロナ対策の「最前線」になっていたホストクラブ。こうした対策で本当に、感染拡大を抑え込むことができるのだろうか。医療ガバナンス研究所の上昌広理事長はこう指摘する。

「池袋や新宿だけが『夜の街』ではないでしょう。同じような街はたくさんあるのに、一部の街や業種だけをやり玉に挙げて意味があるのでしょうか。『夜の街』は批判しやすい一方で、それ以外の多くの仕事について、職場などで感染が広がっていないかどうかは、検査をしていないからわからない。仮に検査の網をほかの業種にも広げれば、クラスターは数え切れないほど出てくると考えられます」

(本誌・上田耕司)

※週刊朝日オンライン限定記事

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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