2時間で22曲。ライブ途中で「最後の曲です!」と桑田さんが言えば「えー!」とお約束のブーイング。曲の合間に歓声や拍手が聴こえる演出。誰もいないはずの客席をカメラが舐めると、巨大な会場のそこかしこに観客の涙と笑顔が見えた気がした。

「東京VICTORY」では本物の火を灯した聖火台が現れ、ステージ袖の黒いTシャツを着た多くのスタッフが一斉に拳を突き上げ、僕の涙腺は崩壊。このライブのきっかけのひとつにコロナの影響で大変な思いをしているスタッフへの想いもあったという。スタッフを元気づけたい。そんなサザンの優しさにぐっと来た。スタッフのマスクにはスマイルマークが。それを見て「逆境を逆手に取る凄さっていうか、『ウィズ・コロナ』ってそういうことなのかなって思いました」とラジオで語った桑田さん。本編フィナーレは42年前のデビュー曲「勝手にシンドバッド」。「いつになればコロナが収束するのかな!? お互いにそれまではグッと我慢の暮らしを続けましょう!!」との替え歌に「がんばって乗り切ろう!」と全国の音楽ファンが心を新たにする励ましと癒やしのライブだった。

週刊朝日  2020年7月17日号

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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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