柴門:コミック誌と一般週刊誌はぜんぜん畑が違うんで、縁がなかったんだけど、私、53歳のときにごく初期の乳がんをやったんです。そのときに、「漫画を描き切ってない。女性を描き切ってないな。まだ死ねない」と思ったんですね。ずっと青年誌で男性読者を相手に男性編集者と打ち合わせして描いてたので、女性を描きたいと思っても、「男性読者に受け入れられません」と言われることも多くて。

林:そうなんだ。

柴門:思い切り女性を描きたいなと思って、自分から「女性セブン」に「女性向けの漫画を描きたい」と言ったら、編集部が受け入れてくれて。

林:そりゃうれしいですよ。柴門さんから「描かせてほしい」と言われたら。

柴門:「女性読者に向けて好き勝手描いてください。何も注文つけません」って言われたんです。

林:私、いつも不思議に思うんだけど、柴門さんってうちから外に出ない人じゃないですか。夜も遊ばないし。それでなんでこういうことが描けるのか。

柴門:けっこうよく会う女友達の話を聞いたり。

林:だけど、それだって限界があるでしょう。

柴門:10年ぐらいため込みましたよ、ネタを。

林:そうそう、うちの娘を幼稚園に入れたとき、柴門さんに「おもしろいネタいっぱいあるだろうけど、10年は寝かさなきゃダメよ」って言われました。

柴門:『恋する母たち』は、私が40代のころに周りにいたママ友から「ちょっとちょっと、聞いてよ」みたいな相談を受けて、すぐ描いたらバレちゃうから、ちょっと寝かさなきゃと思って、10年寝かしたの。

林:そのころそういう奥さんたち、みんな不倫してたわけ?

柴門:結局不倫しなくて、「ギリギリまで行ってやめて戻ってきた」みたいな話を聞いてました。その当時、主婦はわりと戻ってきてたんです。もしバレたら失うものが大きすぎるというんで。でも、仕事を持っている女の人は、「バレたら離婚すればいいや」みたいな感じで、仕事を持ってる既婚の女子のほうがむしろ不倫してた。

林:『恋する母たち』でも、キャリアウーマンの優子も、肉食系ですごいですよね。

柴門:キャリアウーマンのほうが肉食系が多いですね。エネルギーがすごいのと、仕事ができる女って自分で時間もマネジメントできるし、気持ちの切り替えもできる。専業主婦って、ほかに考えることがなくて不倫相手のことばっかり考えるからバレちゃうんです。

林:なるほど。

柴門:それと、キャリアウーマンは自分が稼いでるお金だから。後ろめたさが少ない。専業主婦はどこかで「旦那に悪いな」という気持ちがありましたね、私が相談に乗ってたころは。

林:読者の反応はどうなんですか。「私のことみたい」という感じ?

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