舞台の魅力もまた、目には見えない部分を観客の想像力に託しながら、ともに一つの時空間を作っていける部分にあるという。

「限定されたブラックボックスのような空間で、想像力を駆り立てながら俳優たちの言葉と肉体を追っていくのが舞台です。だからこそ、いくらでも現実を超えられるんだと思う」

 これから我々はどう生きていけばいいんだろう? どうやってお互いを認め合えばいいんだろう? 誰もが心のありようを探る中、「演劇の世界では、もっと面白い脚本が生まれ、もっと心の奥に響く作品が、これから生まれると思います。僕はそう信じている」と亞門さんは言った。相変わらずの力強さ。最近は、犬の散歩に出かけるとき、すれ違う人に積極的に挨拶をしているらしい。

「誰もが、自分が感染しないためだけじゃなく、人に感染させないとか、そこまで考えて行動している。自然に、人を思いやっているんです。生きること、健康でいること、散歩すること、笑えること、挨拶ができること。そんなささやかな日常を愛おしく思えるのは、いいことだと思います。人類として貴重な体験をしながら、この長い夜が明けたとき、人は何が見たいのか。次に何が生み出されるのか。そこに僕はとても興味があるし、人々の価値観に、大きな変化が訪れることが、楽しみでもあるんです」

(菊地陽子、構成/長沢明)

週刊朝日  2020年6月5日号より抜粋