そこで、家計を預かる井戸さん自ら実践したのは、日常生活費と一時出費などのお金を別々の銀行口座に分けておくこと。趣味や娯楽はそれぞれのお小遣いから捻出するようにした。日常生活費の口座は残高が目減りしても、もうひとつの口座には、一時出費のためのお金がキープしてあると思うことで、不安感を払拭できたという。

 また老後の家計管理で、井戸さんが勧めるのが「年金カレンダー」。定年後に、いつから、いくら年金を受け取れるのか一覧表にしておくと、家計の管理がしやすくなる。

「60歳で定年した後、年金がもらえない『空白期間』がわかります。公的年金のほかにも、退職金の一部が年金として支払われる企業年金、生命保険や損害保険で個人的に加入してきた個人年金は受け取る期間が限られています。年金収入が多い年と少ない年がわかるので、少ない年の対策が立てられます」(同)

 夫婦2人の年金収入と支出を年ごとにシミュレーションした。

 1カ月の生活費が25万円かかると想定して、1年で300万円。年金を満額で受け取る65歳より前と、企業年金がなくなる71歳以降、赤字になることがわかった。その対策として65歳までは夫が月12万円の収入を得られるような働き方をして、71歳以降は赤字分の生活費をカットする、というように、やることが明確になる。

「いきなり生活費をカットするのは難しいので、まず家計の赤字分を最低限カットすることを目標にしてみるといいでしょう。それから少しずつカットする幅を多くすれば、無理に働かなくてもいいようになります。今の家で住み続けるとしたらあと何回リフォームが必要になるか。医療や介護に必要なお金はいくら確保しておけばいいのか、およその目安がつきます」(同)

 介護費の目安になるのは、生命保険文化センターが2018年度に行った調査。1人あたり介護にかかる期間は平均4年7カ月、費用は月額7・8万円。住宅の改修など一時的な費用は69万円で、トータルで494万円かかるとしている。

 長期入院したときの医療費を250万円程度、多めに見積もって、1人800万円、夫婦2人で1600万円みておけば安心と井戸さんは言う。

 このようにお金の不安を少しでも解消しておくと、夫が「退職したい」と言いだしたとき、妻は夫の背中を押しやすくなるという。(ライター・村田くみ)

週刊朝日  2020年5月29日号より抜粋