家族に感染者が出なかったのは、谷本さんの努力なくしてありえなかっただろう。知人の女性は、「3月にはマスクも消毒液も売ってなかった。私の家族で感染者が出たら、全員が感染していたと思う」と話す。

 自宅療養する軽症者が感染拡大の原因になっていることは、1月の時点から指摘されていた。世界で最初に感染爆発がおきた中国の武漢市では、2月以降はホテルや体育館を隔離施設に改造して、軽症者を次々に家族から引き離した。それが流行拡大の抑え込みに効果的だったとの指摘もある。重症者は病院で治療し、軽症者はホテルなどに隔離する。自宅療養せざるをえない場合は、行政が徹底的にサポートする。感染拡大を防いだ国々に共通する戦略だ。

 谷本さんの息子が入院してから約3週間が経過したが、いまだに喉の痛みや頭痛があるという。ところが、PCR検査で陰性になったことから、退院を求められている。しかし、退院すれば再び、谷本さん家族は緊張感の続くコロナ介護が始まることになる。ようやく再開できた仕事も、また休まなければならない。

 日本では、4月21日に埼玉県で自宅療養中の50代男性の容体が急変して死亡したことを受け、政府は軽症者でも基本的にホテルなどの施設で療養する方針に変更した。だが、5月7日現在でも感染者の1割以上が自宅で過ごしている。子供や高齢者などの世話が必要で、自宅療養を選ぶ人も多いという。家庭内感染の恐怖と闘っている人の数は、公表されている957人よりはるかに多いはずだ。(本誌・西岡千史)

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