中村:あれが俺にとっての口上なんですよ。金屏風の前もいいけど、俺はブルックリン橋だよ、もとは河原乞食なんだよという……。(中略)

林:でも勘三郎さん、昼の部、出ずっぱりで、1時間後にはまた夜の部で、とても人間ワザとは思えない。

中村:いま、体力ありますから。

林:体力だけじゃないような気がします。すごい気迫を感じますよ。

中村:この前、体を調べに行ったんですよ。お医者さんが言うには、どこも悪くないんだけど、ただ、ドーパミンという脳の興奮系のホルモンが、人の3倍も出てるんですって。「それってどっか悪いんですか? ドーピング検査に引っかかるんですか?」って聞いたら、「いや、それとは全然違います」って。コントみたいな話でしょ(笑)。(中略)

林:でも、初日に芸者さんたち、きれいどころがずらっと桟敷に並ぶとか、ああいう古風で華やかな伝統は続いてほしいですね、個人的には。今回は京都からもいらしたとか?

中村:ええ、総見、やってくれました。先斗町も祇園町も。

林:ふだんから遊んでなければ、なかなか来てくれないでしょう。

中村:そうですねえ。これは歌舞伎では初めてなんですけど、楽(千秋楽)の前の日、銀座の総見があるんですよ。銀座のきれいなお姉さんたちが並んでくれるんです。知り合いのクラブが中心になって。

林:わかった! あの超高級クラブですね。昔、黒木瞳さんが「化身」に出るんで、勉強のためにバイトしてたお店。知らないで勘三郎さん、黒木さんを口説いたんですよね。

中村:アハハハ、そう。「かすみ」って名前で出てたんですよ。えらいきれいな人がいるんだと思って、アフターを誘ったのよ。「おすしでもどう?」って言ったら「はい、どこでも」って言うから、六本木のすし屋に連れてったの。入ったら、「私、生ものダメなんです」って。殺してやろうかと思った(笑)。そのあと、ほんとは女優さんだったってことを知って愕然としてさ。ひどい女です、あれは。

林:私もその伝説はいろんなところで聞きました。

中村:伝説じゃなくて、ほんとの話なの。口説いたのは俺と小林薫(笑)。

週刊朝日  2020年5月8‐15日合併号