これだけ大量の株を持っていると、株価が下がると多額の評価損を抱えることになる。3月10日の参議院財政金融委員会で日銀の黒田東彦総裁はこう答弁した。

「日本銀行の2019年9月末におけるETFの保有状況を前提として機械的に計算すると、日経平均株価が1万9千円程度を下回ると保有ETFの時価が簿価を下回る」

 その上で、9月末以降のETF買い入れ実績をもとに計算すると、現在はさらに500円程度切り上がると説明した。つまり日経平均株価が1万9500円程度を下回れば評価損が発生するというのだ。3月12日の終値は1万8559円なので、すでに評価損は発生していることになる。

 評価損がふくらんでも、株を手放して損失が確定するわけではないので、大きな影響はないという見方もある。だが、評価損が大きくなると、財務の健全性が悪化するのは間違いない。日銀は株価下落にともなって「引当金」を積むことになっており、決算にも影響してくる。黒田総裁も次のように認める。

「ETFの時価総額がいくらで損益分岐点を上回っている、下回っているということで、日本銀行全体の収益に大きな影響が出るわけでは必ずしもない。それだけを取り出して言うことは必ずしも適切でないが、ETFについては仮に保有しているものの時価総額が取得したときより下がってしまうと、引当金を積むことになっている。それ自体は十分注視していく必要がある」

 この問題を早くから指摘していたのが藤巻氏。参院議員時代には、日銀幹部に評価損の発生リスクについて、繰り返し質問していた。

「1年ほど前の国会では、日銀副総裁が2018年9月を基準にすると日経平均株価が1万8千円で含み益がなくなると答弁していました。ざっと計算すると日経平均株価が1千円下がると、約1・2兆円含み益が吹っ飛ぶことになります。いまは当時よりも株の保有額が増えているので、1千円で約1・3兆円は減るのではないでしょうか」

 評価損が膨らみ続ければ、負債が資産を上回る「債務超過」になりかねないという藤巻氏の指摘は本当なのか。日銀の自己資本(資本勘定+引当金勘定)は19年9月末で約9・3兆円もある。

 日経平均株価1万9500円が損益分岐点で、1千円で約1・3兆円評価損が増えると仮定すると、自己資本に見合う評価損が発生するには、1万2千円程度まで下落する必要がある。その水準までには、まだ余裕がある。万が一、その水準が近づけば、日銀は公的資金で自己資本を強化しようとするはずで、すぐには債務超過にはならないとみられる。

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コロナショックが来たのに「切れるカード」がない