もうひとつは「みずからの力量を知る」(巻第二の31)という教えです。「何をするのもまず自分の力量をはかってからすべきである」と説いたうえで、「力が及ばないのに無理をすると、気がへって病気になる」といましめています。若いときには、自分の力量を超えて挑戦してみるということも必要かもしれません。しかしナイス・エイジングにとっては無用ですね。すでに様々な経験を積んだ我々は、自分の力量を踏まえて、それをマイペースの基準にすればいいのです。

 中国の古典の菜根譚にもマイペースにつながる教えがあります。「忙中に閑、閑中に忙の心を」というものです。

「天地は静かで動かないようであるが、その間にある陰陽二気のはたらきは、少しも休息することがない。(中略)だから、君子は、ひまな時にも、さしせまった時の心がまえが必要であるし、また急がしい時にも、ゆったりとしたひまな時の心のゆとりが必要である」(講談社学術文庫、中村璋八・石川力山=訳注)

 まさにこれこそがマイペースを守るための心得ではないでしょうか。

週刊朝日  2020年2月28日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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