この考え方は、私にはとてもしっくりします。それは私が提唱するホリスティック医学にも通じるものだからです。

 以前にも生命場については書きましたが(2019年12月13日号)、ホリスティック医学では自然界を場の階層でとらえます。

 人間という階層の下には、臓器、細胞、遺伝子、分子、原子、素粒子があり、上には地域社会、自然界、地球、宇宙、虚空などがあります。そして、上の階層は下の階層を超えて含むという原理が働いています。

 従来の医学ががん治療でなかなか成果を上げられないのは、臓器レベルの治療法が主体になっているからです。がんは人間の階層からアプローチする必要があります。

 つまり、人間をまるごととらえなければいけないのです。

 最近、私は人間をまるごととらえるだけでは足りないと考えるようになってきました。本当は素粒子から虚空まですべての階層を視野に収めていないといけないのです。

 つまりそれは、「芥子須弥を容る」ということです。人間の存在を縁起でとらえるという仏教の道理は、ホリスティック医学にも必要な考え方です。

 人生も後半になれば、自分がひとりの力だけで生きていると考える人はいなくなっていると思います。孤立した個人はありえないのです。縁起を大事にすることこそ、ナイス・エイジングな生き方だと思います。

週刊朝日  2020年2月14日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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